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1 事例
甲県では、今後、公共施設を建設するに当たって、その工事の受注業者を決めるため、入札が行われることになりました。
A社の役員を務めているXさんは、その工事を受注したいと思い、かねてから知り合いで、その入札に関する業務を担当しているYさんに、A社が受注できるよう依頼をしました。
Yさんは、この依頼に応じ、入札に参加予定の他の事業者に対し、「次回から、順番に受注させていく。今回は、A社にお願いしようと思っている」と伝えたところ、他の業者の協力も得られ、結局、A社が、その工事を受注することになりました。
2 官製談合とは
国や都道府県が、公共施設を作ろうとしたとき、建設工事を民間の事業者に依頼するため、広報やホームページ等で募集をし、応募した事業者の中から最も有利な条件(価格)を提示した事業者と契約をするといったことが行われます。
国等がこのような方法によって契約相手を選ぶことを入札といいます。
入札は、最も有利な条件(価格)を提示した事業者と契約をするものであり、これは自由競争が行われることにより、公正な行政の運営を確保するためのものです。
そして、国や地方公共団体などの公共工事や物品の調達において、入札の際、入札に参加する企業同士が事前に相談して、受注する企業や金額などを決めることにより、競争をやめてしまうことを官製談合や入札談合などといいます。
こうしたことが行われると、行政の運営自体が不正なものとなってしまうため、規制する必要があります。
そこで、公務員がこうした入札談合に関与することを排除し、防止するために、官製談合防止法(正式名称:入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律)という法律が定められています。
3 官製談合防止法違反とは
官製談合防止法においては、「職員が、その所属する国等が入札等により行う売買、貸借、請負その他の契約の締結に関し、その職務に反し、事業者その他の者に談合を唆すこと、事業者その他の者に予定価格その他の入札等に関する秘密を教示すること又はその他の方法により、当該入札等の公正を害すべき行為を行ったときは、5年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処する。」とされています(同法8条)。
事例におけるYさんは、この官製談合防止法違反が成立することになります。
また、Xさんは、A社の利益を図るため、Yさんに官製談合を提案し、結果、当該工事をA社が受注することとなっていることから、Yさんと官製談合防止法違反の共犯(共同正犯、刑法60条)として、刑事責任を問われることが考えられます。
4 会社に生ずる責任
Xさんが官製談合防止法違反の罪として、刑事責任を問われるとしても、A社自身が刑事責任を問われることはありません。
もっとも、仮に、XさんやYさんに、官製談合防止法違反の容疑がかかると、Xさんらは逮捕される可能性が高いです。Xさんらが逮捕されてしまうと、官製談合は、社会的な影響が大きいことから、実名やA社の役員であることが報道される可能性があります。
A社の役員が官製談合に関わっていると報道されてしまうと、A社の信用、そして、取引先にも影響が出ることが予想されます。
5 会社における対応・弁護活動
会社の従業員が、官製談合に関わってしまったのではないかと思われる場合、まずは、事件関係者に事情聴取するなどして、官製談合防止法違反に該当するかを慎重に検討する必要があります。
場合によっては、官製談合について無実であることを、捜査機関や裁判所に主張していく必要があることも考えられます。
それを踏まえて、捜査機関への協力や取引先への対応など、会社としてどのような対応をとっていくかを決めていく必要があります。