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1 はじめに
一個人が事業を行う場合に比べて、会社として事業を行う場合、より大きなお金が動くこと、取引相手以外にも株主などといった人々の利害を調整する必要があるなどといった違いがあります。
この違いは刑罰にも反映されています。
例えば、取締役や監査役、執行役などといった役員が犯罪に当たる行為をした場合に、一個人が犯罪をした場合に比べて、重く処罰される場合があります。
また、会社であることによる規制も定められています。
ここでは、それぞれどのような行為が処罰の対象になっているのかを見ていきます。
2 特別背任罪
取締役や監査役、執行役(会社法960条1項3号)などといった一定の者が、「自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えた」場合には、10年以下の懲役か1000万円以下の罰金、またはその両方が科されます(会社法960条1項)。
刑法には背任罪の定めがありますが(特別背任罪は背任罪の特別法となります。)、その法定刑は5年以下の懲役または50万円以下の罰金となっています(刑法247条)。
つまり、懲役刑の上限が2倍、罰金額の上限も20倍と、重く処罰されています。
3 会社財産を危うくする罪
⑴ 不実申述・事実隠蔽
まず、ある一定の者が、特定の事項について、裁判所や株主総会などに対して、「虚偽の申述を行い、又は事実を隠ぺい」することが禁じられています(会社法963条1項から4項)。
具体的な概要は、次のとおりです。
- 発起人や設立時取締役、設立時監査役といった者については(会社法960条1項1号、2号)、設立時の出資等(会社法34条1項や63条1項)や会社設立時に定款に記載する現物出資額や設立費用などに関する記載事項(会社法28条)
- 取締役、会計参与、監査役又は執行役などといった者については(会社法960条1項3項から5項)、募集株式(会社法199条1項3号)や新株予約権の発行(会社法236条1項3号)に際して、「金銭以外の財産を出資の目的とするとき」に定める事項
- 検査役については、会社設立時に定款に記載する現物出資額や設立費用などに関する記載事項(会社法28条)や、募集株式(会社法199条1項3号)や新株予約権の発行(会社法236条1項3号)に際して、「金銭以外の財産を出資の目的とするとき」に定める事項
- 設立時取締役の全部又は一部が発起人である場合に、設立総会決議によって調査のために選任される者(会社法94条1項)については、設立時の出資等(会社法34条1項や63条1項)や会社設立時に定款に記載する現物出資額や設立費用などに関する記載事項(会社法28条)
⑵ 自己株式取得
取締役や監査役、執行役などといった者(会社法960条1項3号から7号)が、「株式会社の計算において不正にその株式を取得したとき」は、名義が誰であっても処罰されます(会社法963条5項1号)。
⑶ 違法配当
また、取締役や監査役、執行役などといった者(会社法960条1項3号から7号)が、法令や定款に違反して、剰余金の配当をしたときも処罰されます(会社法963条5項2号)。
⑷ 投機取引
さらに、取締役や監査役、執行役などといった者(会社法960条1項3号から7号)が、株式会社の目的の範囲外で、投機取引のために会社の財産を処分したときも処罰されます(会社法963条5項3号)。
4 虚偽文書行使等の罪
取締役や監査役、執行役などといった者(会社法960条1項1号から7号)や株式などを引き受ける者の募集を委託された者などといった一定の者が、株式などを引き受ける者の募集をするにあたり、「会社の事業その他の事項に関する説明を記載した資料若しくは当該募集の広告その他の当該募集に関する文書であって重要な事項について虚偽の記載のあるもの」を使ったり、そのような文書に代わって作られている「電磁的記録であって重要な事項について虚偽の記録のあるものをその募集の事務の用に供し」たりしたときは、5年以下の懲役か500万円以下の罰金、またはその両方が科されます(964条1項)。
5 預合いの罪
取締役や監査役、執行役などといった者(会社法960条1項1号から7号)が、株式の発行に係る払込みを仮装するため預合いをした場合は、5年以下の懲役か500万円以下の罰金、またはその両方が科されます(会社法965条前段)。
その預合いに応じた者も同様です(会社法965条後段)。
6 株式の超過発行の罪
発起人や設立時取締役、取締役などといった一定の者が、株式会社が発行することができる株式の総数を超えて株式を発行したときは、5年以下の懲役か500万円以下の罰金が科されます(会社法966条)。
7 贈収賄罪
⑴ 取締役等の収賄罪
取締役などといった一定の者が、「その職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは」、5年以下の懲役か500万円以下の罰金が科されます(会社法967条1項)。
⑵ 取締役等に対する贈賄罪
一方で、取締役などに「前項の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者」、つまり、贈賄側は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます(会社法967条2項)。
⑶ 株主等の権利の行使に関する贈収賄罪
株主総会等における「発言又は議決権の行使」や、責任追及等の訴えに係る株主等の訴訟参加(会社法849条1項)などといった事項に関して、「不正の請託を受けて、財産上の利益を収受し、又はその要求若しくは約束をした者」や、その「利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者」は、5年以下の懲役または500万円以下の罰金に処されます(会社法968条)。
8 株主等の権利の行使に関する利益供与の罪
取締役や監査役、執行役などといった一定の者(会社法960条1項3号から6号)やその他の株式会社の使用人が、株主の権利の行使に関して、「当該株式会社又はその子会社の計算において財産上の利益を供与したとき」は、3年以下の懲役か300万円以下の罰金が科されます(会社法970条1項)。
また、事情を知ってその財産上の利益を受ける者や(会社法970条2項)、利益を供与するように要求した者は(会社法970条3項)、3年以下の懲役か300万円以下の罰金が科されますし、場合によっては両方が科される可能性もあります(会社法970条5項)。
さらに、利益を受けたり、利益を供与するように要求したりした者が、「威迫の行為」をしたときは、5年以下の懲役か500万円以下の罰金が科されますし、場合によっては両方が科される可能性もあります(会社法970条4項、5項)。
9 最後に
以上のとおり、会社に関わる様々な不正行為には刑罰が定められています。
不正を行ってしまった役員等の方自身はもちろん、御社の役員等に不正を行った疑惑がある場合の会社側の立場としても、弁護士に相談し、刑罰が定められている不正行為に該当する可能性があるのかを知ることは、その後の会社側の対応策を練るうえでも有益です。