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はじめに
過去に、大手自動車メーカーが数十万台にのぼるリコールにつながる重要不具合情報を国交省へ報告せず、社内で隠ぺいしていたいわゆるリコール隠しが多数の欠陥車を放置することとなり、その結果として、取り返しのつかない悲惨な事故が発生したこともありました。
また、大手食品メーカーによる産地偽装なども大きな社会問題になりました。
このような企業の不祥事は、企業側の誤った防衛戦略として組織的な隠ぺい工作が図られるなどしてきたことから、長期間にわたり事実が明らかとならず、その多くは、ある程度の規模の社会へのダメージが顕在化して、はじめて、これを見かねた組織内部の社員らからの情報提供によって発覚してきたものでした。
こうした組織内部の社員らからの情報提供としては、内部告発と内部通報があります。
内部告発と内部通報について
内部告発とは、企業の法令違反等の不正を外部の組織である監督官庁、捜査機関、報道機関などに伝えることであり、内部通報とは、企業内部への通報をいいます。
内部告発により、不正な会計処理や製品の重大な不具合の隠ぺいなど企業の法令違反等の不正が一旦明るみに出てしまうと、その企業のイメージダウンは避けられず、場合によっては取り返しのつかないダメージを負うことにもなりかねません。
しかし、内部通報で企業の法令違反等の不正が発覚した場合は、その不正が深刻化する前に対応することができます。
また、未だ内部通報に留まっていれば、マスコミによって大きく報道される前に適切に対処することでダメージを最小限に抑えることもできます。
内部通報制度の導入について
このように、内部告発による会社のダメージを抑えるためには、外部への告発がなされる前に、不正を企業内部で発見して自主的に是正できるようにするべきです。
そのためにも、公益通報者保護法に基づく内部通報制度を導入した方がよいでしょう。この内部通報制度は、企業内部に内部通報窓口を設置し通報を受理する担当者を配置するなどして導入します。
労働者が「301人以上の企業」ないしは「300人を超える企業」には導入が義務化されており、300人以下の企業には努力義務とされていますが、前述したような内部通報により企業側の早期の自浄作用が図れること、外部に通報されてダメージが大きくなる事態を防ぐことができることなどから、企業規模の大小を問わず、積極的に導入を図った方が良いものと思われます。
また、せっかく内部通報制度を導入しても、実際に内部通報があった場合の適切な運用ができていなければ、結局は、内部通報者に不利益を課したり、事実の隠ぺいを図る契機となったりするなど何らの意味をなさないことになるだけでなく、むしろ弊害をもたらすこともあり得ます。
弁護士に依頼するメリット
内部通報制度の導入にあたっては、公益通報者保護法等の関係法令に精通している弁護士からの専門的アドバイスは必要ですし、実際に内部通報制度が導入され、通報窓口で内部通報を受理したあとの適切な対応のためにも弁護士の関与は欠かすことはできません。
誤った導入をしたり、誤った対応をすれば、そもそもの内部通報に係る不正の事実のみならず、誤った内部通報制度の導入そのものが問題とされることもあります。
また、内部告発をされた場合であっても、告発された不正事案について迅速に事実関係を調査し、それが虚偽である場合には、対外的な公表等に加えて、虚偽告訴罪、業務妨害罪、信用棄損罪、名誉棄損罪等の刑事告発等の法的措置の対応を検討する必要がありますし、事実であった場合にも、対外的な公表等に加えて、法的対応を図る必要がありますので、いずれにしてもこれらの対応に精通した弁護士の関与は欠かすことができません。