福祉施設の職員による虐待事案について②

福祉施設の職員による虐待事案について、施設側の不祥事対応の観点から弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

施設職員による虐待事案は、刑事事件になり得る

前回、解説しましたように、虐待の種別として種々のものがありますが、なかでも責任が重大で、施設として最も起こしてはならない虐待事案として、刑事罰相当の虐待事案があります。

身体的虐待

高齢者等に対して、叩く、蹴るなどの暴行を加えれば暴行罪、それによって怪我をさせれば傷害罪となります。また、最悪、死なせてしまった場合、傷害の故意しかなければ傷害致死罪、殺すことの故意が認められれば殺人罪になります。

介護的放棄

介護の放棄は、保護責任者遺棄罪、不保護罪に該当し得ます。保護責任者遺棄罪に該当する行為には、「遺棄」と「不保護」があり、ここで「遺棄」とは、被害者を移動させること、すなわち置き去りにすることであり、「不保護」とは、場所的な隔離を伴わずに、生存に必要な保護をしないことです。

性的虐待

高齢者等に、同意しない意思を形成し、表明し、若しくは全うすることが困難な状態のもとでわいせつな行為をすれば不同意わいせつ罪、また、同様の状態のもとで性交等をすれば、不同意性交等罪になります。

経済的虐待

高齢者等の財産を勝手に処分して利益を得た場合、物について加害者が占有していれば横領罪、被害者が占有していれば窃盗罪になります。

具体例

施設職員による刑事罰相当の事件といえば、平成26年に起きた川崎市の有料老人ホームでの連続転落死事件が有名です。この事件は、介護付有料老人ホームの職員であった被告人が、約2か月間に、3回にわたって、同施設の夜勤業務に従事している際に、入居者ら3名をそれぞれベランダからその身体を抱えてフェンスを乗り越えさせ、施設裏庭に転落させて殺害したという事件であり、被告人は地方裁判所において死刑を宣告されました(令和5年5月11日付けで死刑が確定)。

虐待をすれば逮捕されるのか

虐待行為は、既に述べましたように、刑法の各犯罪に該当し得ます。
しかし、虐待をすればすぐに逮捕されるかと言えば、必ずしもそうではありません。
もちろん、当該虐待行為が、刑法の条文の犯罪に本当に該当するか否かについては厳格に判断されますし、虐待の程度が軽い場合には、たとえ実際に犯罪に該当したとしても、逮捕までされず、在宅捜査ということもあります。

福祉施設の職員による虐待事案について、この続きは今後の記事で解説していきます。

最後に

福祉施設の職員による虐待は後を絶たず、近年増加傾向にあります。虐待防止の取り組み、あるいは、実際に虐待が疑われる事案が発生した際の対応等については、刑事事件について豊富な経験を持つ弊社の弁護士にご相談ください。

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