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背任、特別背任とは
背任罪は、他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り、又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えた場合に成立する犯罪です。
たとえば、銀行の行員が債権回収の見込みがない会社に対して融資を実行した場合などが挙げられます。
特別背任罪は、取締役や監査役など役員に類する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該会社に財産上の損害を加えた場合に成立する犯罪です。
たとえば、取締役会の承認なしに取締役が会社と取引をしたような場合が挙げられます。
いずれも、与えられている任務に背く行為をする点で、信頼関係を破壊する犯罪ですが、背任罪と比べて特別背任罪は会社役員等が行うことが必要とされており、その分、背任罪よりも重い刑罰が定められています。
会社が被害者となる場合
会社において背任や特別背任が問題となる場合のほとんどは、会社が被害者となる場合です。
背任や特別背任の被害に遭った場合には、会社として
- 被害届の提出や告訴をする
- 加害者に損害賠償を請求するといった被害者としての対応はもちろん
- 組織再編
- 再発防止策の構築
- 会社外部への対応
なども併せて考えなければなりません。
①被害届の提出や告訴
会社が被害に遭った場合、加害者である従業員や役員に刑事罰を与えるために被害届の提出や告訴をすることが考えられます。
被害届の提出や告訴をする場合には、事前に背任や特別背任の証拠を集め、捜査機関が受理してくれるように準備する必要があります。
そのため、内部調査は非常に重要ですが、会計帳簿や請求書などの精査はもちろん、役員から指示を与えられて犯罪に関与していた従業員がいないかを調査したり、関係者に聴き取り調査をしたりすることも必要になります。
内部調査には、時間と労力がかかる上、法律的な知識も必要になるので、弁護士などの専門家に調査を依頼することが、結果的に時間や労力の節約につながり、会社業務への支障を最小限に抑えることができます。
②損害賠償請求
背任や特別背任によって会社が被った損害について、加害者である従業員や役員に損害賠償を請求することもできます。
会社財産を喪失させてしまっていることから、その損害を賠償してもらうことは会社財産を回復させるだけでなく、会社資力が戻ることによる社会的信用の回復にもつながります。
しかし、民事裁判で損害賠償請求をしようとすると、損害の立証責任が会社側にあるため、とても大きな負担となりますし、時間もかなりかかってしまいます。
そのため、弁護士に依頼して訴訟を代理してもらうことが有効です。
もっとも、訴訟ではなく、示談や和解といった加害者側との話し合いで賠償を実現することも可能です。
その場合でも、条件面や金額面などについて交渉が必要になったり、要らぬトラブルを避けたりするためにも弁護士を窓口として行うのが肝要です。
③組織再編
特別背任の場合、取締役などの役員が加害者となるため、当該取締役を解任することは当然ですが、未然に防げなかった責任を取って、他の取締役も辞任しなければならなくなる可能性があります。
そのため、運営側の大幅な刷新が行われることになりますが、社会的信用を回復するための新体制移行には、第三者的な目線からの適切な人材登用が必要とされます。
また、場合によってはM&Aなどを繰り返さないといけなくなる可能性もあります。
こういった場合には、専門的な知識が必要不可欠ですので、専門家に依頼しましょう。
④再発防止策の構築
二度と同じことが繰り返されないための対策も講じる必要があります。
なぜこのようなことが起きてしまったのかの原因を調査し、分析するとともに、適切な対策を講じるためには、やはりコンプライアンスに精通した弁護士とともに行う必要があります。
そもそも、社内の意識自体を改善する必要がある場合もあり、社内研修を充実させることも有効ですので、コンプライアンスに関して弁護士や社労士、税理士など各分野の専門家に講師をお願いする等、意識改革に向けた対策をとるのもよいでしょう。
⑤会社外部への対応
株主への説明はもとより、取引先への説明や融資元への説明、報道への対応など、会社外部への対応も必須です。
この対応を間違うと会社の信用が失われ、会社経営に大きな悪影響をもたらす可能性もあります。
事前にマニュアルを作成しておいたり、対応部署を設置しておいたりすることで、迅速に対応することが可能となります。
もっとも、事案に応じて臨機応変に対応することも必要になりますので、いざというときに相談できる外部の専門家とのつながりを作っておくことも重要です。
会社が加害者となる場合
税理士法人や監査法人は会社の会計参与になることができます。
そして、会計参与が任務に背く行為をした場合には特別背任に問われることになります。
ですので、そういった法人が特別背任を疑われてしまう可能性もあります。
特別背任を疑われてしまった場合には、任務に背く行為は行っていないという主張・立証をすることが考えられますし、任務違背行為があるのであれば、刑事事件化や民事裁判を避けるために、示談や和解をすすめていく必要があります。
できるだけ、穏便に済むように対応しないと、法人の代表者が逮捕されてしまったり、報道されてしまったりということが起こり、会社の信用は大きく失われてしまいます。
早めの対応が肝心ですので、もし法人が疑われてしまった場合には、何よりもまず弁護士に相談して、早期に対応していきましょう。