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1 はじめに
外為法(がいためほう)は、正式には「外国為替及び外国貿易法」といいます。
その名のとおり、日本と外国との貿易を含む海外取引や外貨建て取引に関して規制している法律です。
海外との取引がある事業者であれば、常に意識しておかなければならない法律の1つでもあるでしょう。
ここでは、外為法のなかでも、武器等輸出、技術輸出、資本取引規制に関して解説していきます。
2 兵器等輸出
外為法の兵器等輸出については、少し前に、ある会社が外為法違反で起訴されたたものの、検察官が起訴を取り消し、その後その会社が起こした国家賠償請求の裁判で、捜査を担当した警察官がでっち上げを認めたというおそろしい事件がありました。
兵器ではないものを輸出していたとしても、ある日突然外為法の兵器等輸出の罪で捜査を受ける可能性があるのです。
まずは、外為法の関係条文を見てみましょう。
第48条 国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。
2 経済産業大臣は、前項の規定の確実な実施を図るため必要があると認めるときは、同項の特定の種類の貨物を同項の特定の地域以外の地域を仕向地として輸出しようとする者に対し、政令で定めるところにより、許可を受ける義務を課することができる。
3 経済産業大臣は、前二項に定める場合のほか、特定の種類の若しくは特定の地域を仕向地とする貨物を輸出しようとする者又は特定の取引により貨物を輸出しようとする者に対し、国際収支の均衡の維持のため、外国貿易及び国民経済の健全な発展のため、我が国が締結した条約その他の国際約束を誠実に履行するため、国際平和のための国際的な努力に我が国として寄与するため、又は第十条第一項の閣議決定を実施するために必要な範囲内で、政令で定めるところにより、承認を受ける義務を課することができる。
「国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるもの」がいわゆる兵器のことになります。
これらのものを輸出するためには、経済産業大臣の許可を受けなければなりません。
また、「特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物」の具体的な内容は「輸出貿易管理令」(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=324CO0000000378)に規定されています。
輸出貿易管理令には多くの貨物(≒兵器)が定められており、銃砲や火薬類はもちろんのこと、軍用車両や軍用人工衛星、核燃料物質など明らかに武器だと分かるものだけでなく、「電圧又は電流の変動が少ない直流の電源装置」や「高速度の撮影が可能なカメラ又はその部分品」など、一見して兵器とは思えないものも規定されています。
さらに、「輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令」(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=403M50000400049)にもさらに細かく規定があります。
先ほどの警察官がでっち上げを認めたという事件では、噴霧乾燥機の輸出が問題となっており、「定置した状態で内部の滅菌又は殺菌をすることができるもの」(省令第2条の2第2項5号の2ハ)に当たるかどうかが問題となりました。
そして、経済産業大臣の許可を受けずに輸出した場合には、非常に重い罰則が規定されています。
第69条の6 次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした者は、7年以下の懲役若しくは2000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。ただし、当該違反行為の目的物の価格の5倍が2000万円を超えるときは、罰金は、当該価格の5倍以下とする。
一 略
二 第48条第1項の規定による許可を受けないで同項の規定に基づく命令の規定で定める貨物の輸出をしたとき。
2 次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした者は、10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。ただし、当該違反行為の目的物の価格の5倍が3000万円を超えるときは、罰金は、当該価格の5倍以下とする。
一 略
二 第48条第1項の特定の種類の貨物であつて、核兵器等又はその開発等のために用いられるおそれが特に大きいと認められる貨物として政令で定める貨物について、第25条第4項の規定による許可を受けないで同項の規定に基づく命令の規定で定める取引をしたとき又は第48条第1項の規定による許可を受けないで同項の規定に基づく命令の規定で定める輸出をしたとき。
3 第1項第2号及び前項第2号(貨物の輸出に係る部分に限る。)の未遂罪は、罰する。
第72条 法人(略)の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
一 第69条の6第2項 10億円以下(当該違反行為の目的物の価格の5倍が10億円を超えるときは、当該価格の5倍以下)の罰金刑
二 第69条の6第1項 7億円以下(当該違反行為の目的物の価格の5倍が7億円を超えるときは、当該価格の5倍以下)の罰金刑
三 以下略
兵器の内容によって、罰則が分かれています。
核兵器等又はその開発等のために用いられるおそれが特に大きいと認められる貨物の無断輸出は、その危険性も非常に高いことから、「10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金又は併科」と、より重い刑罰が予定されています。
目的物の価格の5倍が3000万円以上の場合には、5倍の額が罰金の上限となります。
それ以外の兵器の無断輸出は「7年以下の懲役若しくは2000万円以下の罰金又は併科」となっています。
さらに、法人処罰規定もあり、核兵器等の場合は10億円以下の罰金、それ以外の場合は7億円以下の罰金となり、いずれであっても非常に多額の罰金を支払わなければならなくなります。
3 技術の輸出
外為法では、物の輸出だけではなく、技術の輸出も規制しています。
これについても、条文を確認してみましょう。
第25条 国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の種類の貨物の設計、製造若しくは使用に係る技術(以下「特定技術」という。)を特定の外国(以下「特定国」という。)において提供することを目的とする取引を行おうとする居住者若しくは非居住者又は特定技術を特定国の非居住者に提供することを目的とする取引を行おうとする居住者は、政令で定めるところにより、当該取引について、経済産業大臣の許可を受けなければならない。
2 以下略
外為法で規制されている技術は「特定技術」といい、「国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の種類の貨物の設計、製造若しくは使用に係る技術」のことを指します。
特定技術の具体的内容は、「外国為替令」(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=355CO0000000260)の別表に規定されています。
輸出貿易管理令からも多くが引用されていますが、それ以外にも例えば「ガスタービンエンジン又はその部分品の設計、製造又は使用に係る技術であつて、経済産業省令で定めるもの」や「航空機又はその部分品の設計又は製造に係る技術であつて、経済産業省令で定めるもの」なども別表に掲げられています。
そして、経済産業大臣の許可を受けずに輸出した場合には、非常に重い罰則が規定されています。
第69条の6 次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした者は、7年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。ただし、当該違反行為の目的物の価格の5倍が2000万円を超えるときは、罰金は、当該価格の5倍以下とする。
一 第25条第1項又は第4項の規定による許可を受けないでこれらの項の規定に基づく命令の規定で定める取引をしたとき。
二 略
2 次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした者は、10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。ただし、当該違反行為の目的物の価格の5倍が3000万円を超えるときは、罰金は、当該価格の5倍以下とする。
一 特定技術であつて、核兵器、軍用の化学製剤若しくは細菌製剤若しくはこれらの散布のための装置若しくはこれらを運搬することができるロケット若しくは無人航空機のうち政令で定めるもの(以下この項において「核兵器等」という。)の設計、製造若しくは使用に係る技術又は核兵器等の開発、製造、使用若しくは貯蔵(次号において「開発等」という。)のために用いられるおそれが特に大きいと認められる貨物の設計、製造若しくは使用に係る技術として政令で定める技術について、第25条第1項の規定による許可を受けないで同項の規定に基づく命令の規定で定める取引をしたとき。
二 以下略
第72条 法人(略)の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
一 第69条の6第2項 10億円以下(当該違反行為の目的物の価格の5倍が10億円を超えるときは、当該価格の5倍以下)の罰金刑
二 第69条の6第1項 7億円以下(当該違反行為の目的物の価格の5倍が7億円を超えるときは、当該価格の5倍以下)の罰金刑
三 以下略
罰則の規定は兵器輸出規制の場合と同様です。
特定技術のうち、核兵器や軍用化学製剤などの開発や製造、貯蔵などに関する技術の場合には「10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金又は併科」と、より重い刑罰が予定されています。
それ以外の特定技術の無断輸出は「7年以下の懲役若しくは2000万円以下の罰金又は併科」となっています。
さらに、法人処罰規定もあり、核兵器等についての特定技術の場合は10億円以下の罰金、それ以外の場合は7億円以下の罰金となり、いずれであっても非常に多額の罰金を支払わなければならなくなります。
4 資本取引規制
資本取引とは、物やサービスの移転を伴わない対外的な金融取引のことです。
外為法で規制している資本規制は多岐にわたりますが、ひとまず条文を確認しておきましょう。
第20条 資本取引とは、次に掲げる取引又は行為(第26条第1項各号に掲げるものが行う同条第2項に規定する対内直接投資等に該当する行為を除く。)をいう。
一 居住者と非居住者との間の預金契約(定期積金契約、掛金契約、預け金契約その他これらに類するものとして政令で定めるものを含む。以下同じ。)又は信託契約に基づく債権の発生、変更又は消滅に係る取引(以下「債権の発生等に係る取引」という。)
二 居住者と非居住者との間の金銭の貸借契約又は債務の保証契約に基づく債権の発生等に係る取引
三 居住者と非居住者との間の対外支払手段又は債権の売買契約に基づく債権の発生等に係る取引
四 居住者と他の居住者との間の預金契約、信託契約、金銭の貸借契約、債務の保証契約又は対外支払手段若しくは債権その他の売買契約に基づく外国通貨をもつて支払を受けることができる債権の発生等に係る取引
五 居住者による非居住者からの証券の取得(これらの者の一方の意思表示により、居住者による非居住者からの証券の取得が行われる権利の当該一方の者による取得を含む。)又は居住者による非居住者に対する証券の譲渡(これらの者の一方の意思表示により、居住者による非居住者に対する証券の譲渡が行われる権利の当該一方の者による取得を含む。)
六 居住者による外国における証券の発行若しくは募集若しくは本邦における外貨証券の発行若しくは募集又は非居住者による本邦における証券の発行若しくは募集
七 非居住者による本邦通貨をもつて表示され、又は支払われる証券の外国における発行又は募集
八 居住者と非居住者との間の金融指標等先物契約に基づく債権の発生等に係る取引
九 居住者と他の居住者との間の金融指標等先物契約に基づく外国通貨をもつて支払を受けることができる債権の発生等に係る取引又は金融指標等先物契約(外国通貨の金融指標(金融商品取引法第二条第二十五項に規定する金融指標をいう。)に係るものに限る。)に基づく本邦通貨をもつて支払を受けることができる債権の発生等に係る取引
十 居住者による外国にある不動産若しくはこれに関する権利の取得又は非居住者による本邦にある不動産若しくはこれに関する権利の取得
十一 第一号及び第二号に掲げるもののほか、法人の本邦にある事務所と当該法人の外国にある事務所との間の資金の授受(当該事務所の運営に必要な経常的経費及び経常的な取引に係る資金の授受として政令で定めるものを除く。)
十二 前各号に掲げる取引又は行為に準ずるものとして政令で定めるもの
第20条の2 次の各号に掲げる取引は、当該各号に定める資本取引とみなして、この法律(これに基づく命令を含む。)の規定を適用する。
一 居住者と非居住者との間の電子決済手段等の管理に関する契約に基づく当該電子決済手段等の移転を求める権利の発生、変更又は消滅に係る取引(以下この条において「電子決済手段等の移転を求める権利の発生等に係る取引」という。) 前条第一号に掲げる資本取引
二 居住者と非居住者との間の電子決済手段等の貸借契約又は電子決済手段等を移転する義務の保証契約に基づく電子決済手段等の移転を求める権利の発生等に係る取引 前条第号に掲げる資本取引
三 居住者と非居住者との間の電子決済手段等の売買又は他の電子決済手段等との交換に関する契約に基づく電子決済手段等の移転を求める権利の発生等に係る取引 前条第三号に掲げる資本取引
「居住者」とは、日本に住む日本人や日本に入国後6か月以上が経過した外国人など、「非居住者」とは、2年以上外国に住む日本人や外国人などを指します。
居住者と非居住者との間の預金契約、賃貸借契約、消費貸借契約、不動産関係などが資本取引に該当します。
また、電子決済の場合にも資本取引に該当します。
そして、特定の資本取引をする場合には、財務大臣の許可が必要となる場合があります。
第21条 財務大臣は、居住者又は非居住者による資本取引(第20条に規定する資本取引をいい、第24条第1項に規定する特定資本取引に該当するものを除く。次条第1項、第55条の3及び第70条第1項において同じ。)が何らの制限なしに行われた場合には、我が国が締結した条約その他の国際約束を誠実に履行することを妨げ、若しくは国際平和のための国際的な努力に我が国として寄与することを妨げることとなる事態を生じ、この法律の目的を達成することが困難になると認めるとき、又は第10条第1項の閣議決定が行われたときは、政令で定めるところにより、当該資本取引を行おうとする居住者又は非居住者に対し、当該資本取引を行うことについて、許可を受ける義務を課することができる。
2 前項に定める場合のほか、財務大臣は、居住者又は非居住者による同項に規定する資本取引(特別国際金融取引勘定で経理されるものを除く。)が何らの制限なしに行われた場合には、次に掲げるいずれかの事態を生じ、この法律の目的を達成することが困難になると認めるときは、政令で定めるところにより、当該資本取引を行おうとする居住者又は非居住者に対し、当該資本取引を行うことについて、許可を受ける義務を課することができる。
一 我が国の国際収支の均衡を維持することが困難になること。
二 本邦通貨の外国為替相場に急激な変動をもたらすことになること。
三 本邦と外国との間の大量の資金の移動により我が国の金融市場又は資本市場に悪影響を及ぼすことになること。
3 以下略
第22条 財務大臣は、前条第1項の規定により許可を受ける義務を課した場合において、当該許可を受ける義務が課された資本取引を当該許可を受けないで行つた者が再び同項の規定により許可を受ける義務が課された資本取引を当該許可を受けないで行うおそれがあると認めるときは、その者に対し、一年以内の期間を限り、資本取引を行うことについて、その全部若しくは一部を禁止し、又は政令で定めるところにより許可を受ける義務を課することができる。
2 以下略
私人間の取引は原則として自由ですし、国家が私人間の取引に口を出すことは民主主義や資本主義経済の観点からもできるだけ避けることが好ましいでしょう。
一方で、外国人や外国法人を相手方とする取引の場合、その取引の内容によっては、我が国に大きな不利益を生じさせる場合があります。
そこで、そのようなおそれがある取引については、財務大臣の許可を受ける義務を課すことができるとしています。
そして、資本取引規制に違反した場合にも、罰則が定められています。
第70条 次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした者は、3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。ただし、当該違反行為の目的物の価格の3倍が100万円を超えるときは、罰金は、当該価格の3倍以下とする。
七 第21条第1項又は第2項の規定に基づく命令の規定による許可を受けないで資本取引をしたとき。
八 第22条第1項の規定による資本取引の禁止に違反して、又は同項の規定に基づく命令の規定による許可を受けないで資本取引をしたとき。
九 以下略
第72条 法人(略)の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
五 第70条又は前2条 各本条の罰金刑
資本取引規制の罰則は、兵器等輸出や技術輸出とは異なり、少し軽く規定されています。
財務大臣の許可を受けなかった場合には「3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又は併科」となります。
また、法人処罰規定もあり、法人にも100万円以下の罰金が科されます。
5 外為法違反と事業者の対応
冒頭にも書きましたが、外為法は国際的な取引を行う事業者は必ず把握しておかなければならないほど重要な法律の1つです。
しかし、どのような場合に外為法の規制を受けることになるのかは、法律解釈による部分も多く、専門家である弁護士と事前にきちんと相談をしておく必要性が高いです。
兵器を輸出しているつもりがまったくなかったのに、兵器輸出として疑われてしまうようなことが現実に起こり得るのです。
事前の弁護士との相談は予防法務という観点からも非常に有益です。
また、外為法違反を起こしてしまった場合には、適切に事実関係を把握したうえで、適切な再犯防止策を構築しなければなりません。
当然、刑事事件となった場合には弁護活動も必要となります。
それだけでなく、株主対応や損害賠償などの対応も必要となるでしょう。
これらの問題に対応し、危機管理や不祥事対策を徹底していくためにも、弁護士の必要性は非常に高いでしょう。