不祥事を起こした社員に退職を求めることができるのか①

【事例】(解説のためのフィクションです)
Aさんは、福岡市早良区で、輸送用機械の部品を製造している会社、X社を営んでいます。
X社は、常時20人の従業員を雇っています。

Bさんは、このX社の従業員で、営業の仕事をしています。
ある土曜日の夜、Bさんは、休みだったので友人と福岡市内の繁華街にお酒を飲みに行っていました。
休みではあったのですが、ちょうどよいからと、BさんはX社のロゴの入ったジャンバーを羽織って出かけていました。そして、Bさんはお酒を飲み過ぎてしまい、隣でお酒を飲んでいた男性客Cさんと口論になってしまいます。
怒りを抑えられなかったBさんは、Cさんの顔面を殴り、地面に倒れたCさんに馬乗りになって何度も殴り続けました。その様子を見た店員が警察に通報し、駆けつけた警察官はBさんを現行犯逮捕しました。
この際、たまたまお店に居合わせた別の客であるDさんは、BさんがCさんに馬乗りになって殴り続けている様子を、Bさんの背中側から動画撮影し、SNS上にアップロードしてしまいました。
もちろん、この動画には、Bさんが着ていたジャンバーにあしらわれたX社のロゴが映っています。

翌朝、Bさんの名前やX社の名前こそ伏せられていたものの、Bさんが事件を起こしたというニュースが新聞で報道されてしました。Bさんが出勤しておらず、報道で流れた情報がBさんと一致していたことから、この事件の犯人がBさんと察しがついたAさんは、Bさんの家族を問い詰め、Bさんが傷害事件で逮捕されているという事情を把握しました。
また、X社の取引先であるY社からは、DさんがアップロードしたSNSを見たとして会社に連絡が来てしまいました。

会社への影響を考えたAさんは、Bさんを解雇したいと考え、解雇しても問題がないのか、もしも問題があるのなら、今後の似たような事態に対応するにはどうしておけばいいのかを、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。

解雇権の行使と,その濫用

まずは,会社による解雇を行うための手続きや関連する労働関連法規について取り上げます。

端的に言って、会社にとって従業員を解雇するハードルは高いといえます。
労働契約法には、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています(労働契約法16条)。
参考:労働契約法
つまり、会社側(使用者側)は、従業員をいつでも自由にやめさせるということはできず、社会の常識と照らし合わせて、解雇が相当だといえるような理由がなければ、やめさせることはできません。

解雇予告

また、解雇に合理的な理由があるとしても、一定の場合を除き、従業員をすぐに解雇することはできません。
労働基準法には、会社側(使用者)が従業員を解雇する場合は、「少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない」とされています(労働基準法20条1項本文)。
つまり、30日以上前に解雇にすると従業員に伝えるか、30日を待たずに辞めさせたいのであれば、その代わりに30日分以上の給料を支払うかしなければ(このお金のことを「解雇予告手当」といいます。)、従業員をやめさせることはできないのです。

もっとも、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合」や「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」は除くとされています(労働基準法20条1項ただし書)。

就業規則への記載

ある一定規模以上の会社は,就業規則を定めねばならず(労働基準法89条柱書前段)、就業規則の中に解雇事由も定めねばなりません(労働基準法89条3号かっこ書)。会社としてルールを定めるのであれば,その内容が周知されていなければならないからです。この点については、また別の記事で解説します。

このように、従業員が不祥事を行い、会社としてその従業員を解雇したいと思っても、解雇するのは法律上のルールをクリアする必要があります。
また、法律上のルールをクリアするためにも、会社として事前に行っておくべきこともあります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、会社内で不祥事が起こった場合の対応・アドバイスにも力を入れています。
会社としての不祥事対応へのアドバイスをご希望の方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

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