Archive for the ‘不祥事・危機管理’ Category
迷惑行為の動画を拡散された 店側としてはどのような対応をとるべき?
【事例】
A社はB市内において複数のラーメン店を運営していました。
ある日動画配信サイトにおいて、A社の運営するラーメン店において、客Xが備え付けの箸をなめてそれを箸箱に戻す様子が映った動画が投稿されていた。
動画はSNSで引用されるなどして多くの人の知るところとなり、店の評判を大きく落とすこととなりました。
A社はあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に今後の対応について相談しました。
(事例はフィクションです)
迷惑動画をあげることにはどのような罪が成立しますか
近年SNSや動画サイトの隆盛により、周囲からの注目を浴びるなどの目的で、事例のような迷惑動画を上げるケースが社会問題になっています。
今回の記事では、企業が事例のような迷惑動画の被害に遭った場合に取るべき対応について、詳しく解説させていただきます。
はじめに、迷惑動画をあげる行為にはどのような犯罪が成立するのかについて事例を題材に説明させていただきます。
まず事例において成立する犯罪として、威力業務妨害罪(刑法234条)が考えられます。
罪名にある「威力」というと暴力や脅迫などが思い浮かぶかもしれませんが、事例のようなお店の業務を妨害するような動画を上げる行為も「威力」に該当します。
他にも、事例にある箸をなめて箸箱に戻す行為行為は、その箸を心理的に今後使えなくする行為なので、器物損壊罪(刑法261条)が成立する可能性があります。
たとえ物理的に破壊していなくとも、茶碗に放尿するなどその物を心理的に今後使えなくする行為について刑法では器物損壊罪の成立を肯定しています。
このように最初にあげた事例では、刑法上の威力業務妨害罪や器物損壊罪が成立する可能性が高いといえます。
店側として取るべき対応
1 犯人の特定
事例のような動画投稿の多くはSNSや動画サイトなどで匿名で投稿されることがほとんどです。
動画を撮影したものや迷惑行為をしたものに対して責任を追及する場合には、まずその犯人を特定することから始める必要があります。
そしてアカウントの情報のみで犯人が分からない場合には、発信者情報開示請求を動画が投稿されたプロバイダに対して行うことが、犯人を特定する方法として考えられます
発信者情報開示請求は裁判所に必要書類を揃えて申し立てをする必要があるなど複雑な手続きですので、請求を考える場合には早急に弁護士に相談することをお勧めします。
また動画の映像やお店の防犯カメラに映った映像から犯人を特定する方法として、後述する刑事告訴を行い捜査機関に犯人を特定してもらう方法もあります。
2 刑事告訴
捜査機関に対する告訴とは、犯罪の被害を受けた者などの告訴権者が捜査機関に犯罪事実を申告して犯罪者の処罰を求める行為です。刑事告訴をするメリットとしては、先述のように犯人の特定が難しい場合に捜査機関の力を借りて犯人の特定ができる場合があることがあります。
また近年大きな社会問題になっている迷惑動画の投稿に対して、店側として許さない毅然とした態度を示して、模倣犯や愉快犯を防ぐ意味合いもあります。
刑事告訴は必ず弁護士を代理人にする必要があるわけではありませんが、事実の特定や捜査機関との連携を弁護士が行うことでスムーズに手続きが進みやすくなるので早期に弁護士に相談することをお勧めします。
3 民事上の賠償請求
刑事手続きが、犯人に対する刑事処罰を目的とする行為であるのに対して、事例の場合における民事手続きは犯人に対する金銭的な責任を追及する手続きになります。
どのような手続をとるかは被害の大きさや加害者側の対応、社会的影響の大きさなどを比較考慮して決める必要があります。
事例の事案では損害賠償の額の算定が問題になるケースが多いでしょう。
事例では単に箸が使えなくなったのみではなく、動画の拡散によってお店の印象が低下して客が減り、損害が発生している可能性が高いです。そのような場合に、収入が減った場合の損害を証明することは簡単ではありません。
手段の選択や、訴えると決めた場合の損害額の証明は容易ではないので、事例のような事態発生の発覚後すぐに弁護士に相談することをお勧めします。
4 信用回復のために取るべき措置
今回の事例のようなケースではなるべく早く、お店の信頼回復を図る必要があります。
具体的には、動画がこれ以上拡散することがないように問題の動画や動画を引用した投稿を削除する申請を行うことや、同じような行為が繰り返されないように箸箱を客席におかないなどの再発防止策をとる必要があります。
飲食店などは特に客からの評判によって収益が大きく変わるので、客の信頼を回復するための措置はなるべく早くとる必要があります。
刑事事件対応に強い顧問弁護士
あいち刑事事件総合法律事務所は刑事事件・少年事件に精通した事務所として、刑事事件、少年事件をこれまで多数扱ってまいりました。
そのように刑事事件に強い事務所だからこそ、事例のように企業が刑事事件の被害者になった場合の適切な対応には自信があります。
先ほども述べたように、現代ではSNSの発達やスマホの普及によって、情報は瞬く間に拡散されるので迅速な対応が非常に重要になります。
そのためには、事例のような事態が発生してから弁護士を依頼するのでは対応が後手に回ってしまうおそれがあります。
あいち刑事事件総合法律事務所では、平時からご依頼いただき平時から法律相談相談に加え、事例のような場合に迅速に対応できる顧問契約を準備させていただいております。
事例のような事態にお困りの方、もし事例のような事態が発生した場合のご対応にご心配がある方は、ぜひ一度あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
コンプライアンス体制の構築②
当サイトで取り上げた事例を基に,コンプライアンス体制の構築について解説していきます。
以前の記事で、コンプライアンス体制を構築する大前提として、コンプライアンスとは何か、コンプライアンスが強く求められるようになったのはなぜかについて解説してきました。
今回は、コンプライアンス違反に陥りやすい状況について解説していきます。
コンプライアンス違反の事例は,もはやどの企業・団体で起きてもおかしくないといえるものになっています。
参考記事:過去1年以内にコンプライアンス違反が発生した企業は約4割、実態調査を実施
コンプライアンス違反に陥りやすい状況
コンプライアンス体制を構築するといっても、どのような場所にリスクが潜んでいるのか、どのような状況が“危ない”状況なのかが分からなければ、効果的な対策が講じられません。
そこで、コンプライアンス違反に陥りやすい状況として、2つの場合を例示します。
1つ目は、危険な企業独自の風土がある場合です。
例えば、営業成績のみを殊更に従業員に求めるような場合や、部署ごとの人的な繋がりがなかったり、ともすれば部署間の競争を会社が執拗にあおったりする場合です。
会社がある活動をするときに、その活動は少なくとも短期的には会社に利益をもたらしますが、社会的、道徳的には問題のある活動だったとします。
前者は、このような場合に、社会的、道徳的には問題があるかもしれないと従業員が思ったとしても、「会社の利益になるから」と判断させてしまう可能性が高まるでしょう。
後者は、部署ごとに閉鎖的な意識を従業員が持つことになりますから、例えば、「営業部の実績になるのだから、その後、顧客対応をする事業部(場合によっては法務部)が困っても構わない」といった事態を招くおそれもあります。
2つ目は、継続的に対策を講じる姿勢に欠ける場合です。
情報化社会といわれて久しいですが、このように社会が複雑になっていくのにともない、様々な問題が生じていきます。
その様々な問題に対応するため、日々新たな法律が作られることもありますし、法律の解釈や運用が変わっていくこともあります。
このようにルールが変わっていくことに敏感でないと、ルールが変わったことに気付かず、知らないうちにコンプライアンス違反となってしまう可能性もあります。
今回は、コンプライアンス体制の構築に関して、コンプライアンス違反に陥りやすい状況について解説していきました。この続きは今後の記事で解説していきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、そもそも会社内で不祥事を起こさないための対応・アドバイスにも力を入れています。
コンプライアンス体制の構築などについてアドバイスをご希望の方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
管理職・役員の不適切発言
(以下の事例はフィクションです)
A社の課長Bさんは、新入社員が初めて出社した際、「うちの販売戦略は、地方から出てきた田舎者の世間知らずに安く商品を売り、うちの商品の虜にしてしまう。いわばシャブ漬け戦略である。」と言いました。その場では何事もなく終わりましたが、その後、SNSに、A社のB課長による「シャブ漬け戦略」との発言について投稿がなされました。
企業管理職の不適切発言について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
Bさんの発言は何が問題か
おそらくBさんの発言は、その場の雰囲気を盛り上げるために冗談を言ったのだと思われますし、特定の誰かを誹謗中傷しているわけでもないので、刑法上の名誉毀損罪や侮辱罪といった犯罪には該当しません。したがって、発言が法令に違反しているわけではありません。
しかしながら、Bさんの発言は、それを聞いた多くの人が不快に感じるでしょうし、企業の管理職にあたる人がそのような発言をしたとなれば、その影響は相当大きいといえます。それを聞かされた新入社員にとっては、A社では働きたくないと思うでしょうし、SNS投稿を見た多くの人は、今後はA社の商品を買わないといった不買運動に発展していくことが考えられます。
コンプライアンスとは、法令遵守にとどまるものではない
企業犯罪や不祥事を起こさないための予防策のことをコンプライアンス(コンプライアンス体制)といいます。コンプライアンスとは、直接的には「法令遵守」を意味します。
しかし、企業に求められるコンプライアンスには、法令遵守だけでなく、倫理観、公序良俗などの社会的な規範に従い、公正・公平に業務を行うことも含まれています。法令に加えて、企業が独自に定める就業規則や社内規定から、倫理・モラル的に社会通念上守るべきルールまで遵守しなくてはなりません。
Bさんの発言は、法令には違反していないものの、社会規範の悖る行為であり、コンプライアンス違反に当たる行為といえます。
実際、法令に違反していなくてもBさんのような発言をすれば、取引先からも見放されるなど、企業にとっては、甚大な被害が生じるでしょう。コンプライアンスを単なる法令遵守の問題と捉えていると、実際に不祥事が発生した際の対応や、不祥事の発生を防止するための対策の講じ方を誤るおそれがありますので注意が必要です。
A社が取るべき対応は
Bさんの発言を聞いて、不快な思いをした人に、まずはお詫びをし、Bさんの発言内容が事実と異なるなら,更なる風評被害を防ぐ意味でも、A社が「シャブ漬け戦略」など取っていないことを企業のホームページ等で広く伝えることが必要です。その際、Bさんについて減給等の懲戒処分をしたなら、Bさんの処分についても発表します。
さらに、再発防止策を策定し、既に対策をとっていることについても公表することが肝要です。
本件の再発防止策としては、企業内研修が有効です。コンプライアンスに関する企業内研修を行い、ルールの周知徹底や意識改革をする必要があります。
また、本件は、不正を起こした場合、影響力の大きい企業管理職の発言が問題となっており、研修については、役員や管理職向けなのか従業員向けなのかによっても内容を変える必要があります。
倫理研修のような様々な分野に横断的に対応できる研修を行ったりすることも有効でしょう。
企業で本件のような不正行為が発覚した場合、弁護士のサポートがあればスムーズに進みます。不正を行った者に対して責任を追及したい場合や風評被害対策にお困りの場合等には、早期に弁護士に相談した方がよいでしょう。
弁護士へのお問い合わせはこちらからどうぞ。
不祥事を起こした社員の退社を求めることができるのか④
【事例】(事例はフィクションです)
Aさんは、福岡市早良区で、輸送用機械の部品を製造している会社、X社を営んでいます。
X社は、常時20人の従業員を雇っています。
Bさんは、このX社の従業員で、営業の仕事をしています。ある土曜日の夜、Bさんは、休みだったので友人と福岡市内の繁華街にお酒を飲みに行っていました。休みではあったのですが、ちょうどよいからと、BさんはX社のロゴの入ったジャンバーを羽織って出かけていました。
そして、Bさんはお酒を飲み過ぎてしまい、隣でお酒を飲んでいた男性客Cさんと口論になってしまいます。怒りを抑えられなかったBさんは、Cさんの顔面を殴り、地面に倒れたCさんに馬乗りになって何度も殴り続けました。
その様子を見た店員が警察に通報し、駆けつけた警察官はBさんを現行犯逮捕しました。
この際、たまたまお店に居合わせた別の客であるDさんは、BさんがCさんに馬乗りになって殴り続けている様子を、Bさんの背中側から動画撮影し、SNS上にアップロードしてしまいました。
もちろん、この動画には、Bさんが着ていたジャンバーにあしらわれたX社のロゴが映っています。
翌朝、Bさんの名前やX社の名前こそ伏せられていたものの、Bさんが事件を起こしたというニュースが新聞で報道されてしました。
Bさんが出勤しておらず、報道で流れた情報がBさんと一致していたことから、この事件の犯人がBさんと察しがついたAさんは、Bさんの家族を問い詰め、Bさんが傷害事件で逮捕されているという事情を把握しました。
また、X社の取引先であるY社からは、DさんがアップロードしたSNSを見たとして会社に連絡が来てしまいました。
会社への影響を考えたAさんは、Bさんを解雇したいと考え、解雇しても問題がないのか、もしも問題があるのなら、今後の似たような事態に対応するにはどうしておけばいいのかを、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
1 はじめに
これまで,解雇権の濫用や解雇予告、就業規則への記載といった会社が従業員を解雇するためのルール、そもそも就業規則とは何なのかといった点について解説してきました。
今回は、それらを元に、X社がBさんを解雇できるのか、解雇以外にBさんにX社をやめてもらう方法があるのかについて解説していきます。
2 解雇予告について
解雇に合理的な理由があるとしても、一定の場合を除き、従業員をすぐに解雇することができないというのが法律のルールです(労働基準法20条1項)。
そのため、Bさんの場合は、このルールの例外、具体的には「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」に該当するのではないかという点が問題となります。
Bさんの場合は、Bさん自身が傷害事件を起こしていますから、この点はクリアすると判断されることが多いでしょう。
3 就業規則の記載と解雇権の濫用
⑴ 就業規則
就業規則には、どのような場合に解雇となるかという点も含めて、退職に関する事項を定めなければなりません(労働基準法89条3号)。
⑵ 解雇権の濫用
また、労働契約法には、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています(労働契約法16条)。
⑶ Bさんの場合
Bさんの場合、勤務時間中に傷害事件を起こしたわけではありません。
また、Bさんの名前や会社名が報道されているわけでもありません。
この点は、Bさんの懲戒解雇を否定したり、解雇の相当性を否定したりする方向にはたらく事情でしょう。
その一方で、SNS上にアップロードされた動画から、この傷害事件の犯人はX社の従業員だと思われてしまう状況が生じています。
また、それを見た取引先のY社から、X社に実際に問い合わせがきており、会社の悪い風聞がまさに広まってしまってもいます。
これらは、Bさんの懲戒解雇を肯定し、解雇が相当だと判断させる方向にはたらく事情だと言えます。
このような事情から、Bさんを解雇することが、社会の常識と照らし合わせて、相当といえるのかが判断されることになります。
4 退職勧奨
X社としては、Bさんを一方的に解雇にする事情があるとして解雇したとしても、今後、Bさんから解雇が不当なものだと争われるかもしれません。
また、そもそも一方的に解雇するだけの事情があるといえるのか不安に感じる場合もあるでしょう。
それでもBさんに会社をやめてほしいと考えるのであれば、退職勧奨をして、Bさんの自由意思でそれに応じてもらうという選択肢もあります。
このように、従業員が不祥事を行い、会社としてその従業員を解雇したいと思っても、法律のルールをクリアする必要があります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、会社内で不祥事が起こった場合の対応・アドバイスにも力を入れています。
今回のケースで従業員を解雇できるのか、現在の就業規則の規定で十分なのかなどについてアドバイスをご希望の方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
こちらからお問い合わせいただけます。
マネーロンダリングと企業犯罪
テロや国際犯罪に対応するため、マネーロンダリング(資金洗浄)の防止が私企業にとっても重要となっています。
ここでは、マネーロンダリングについて解説します。
マネーロンダリングとは
マネーロンダリングについては、「マネー・ロンダリング(Money Laundering:資金洗浄)とは、一般に、犯罪によって得た収益を、その出所や真の所有者が分からないようにして、捜査機関等による収益の発見や検挙等を逃れようとする行為を言います。このような行為を放置すると、犯罪による収益が、将来の犯罪活動や犯罪組織の維持・強化に使用され、組織的な犯罪を助長するとともに、これが移転して事業活動に用いられることにより健全な経済活動に重大な悪影響を与えることから、国民生活の安全と平穏を確保するとともに、経済活動の健全な発展に寄与するため、マネー・ロンダリングを防止することが重要です。」と説明されています。
参照
JAFIC「マネー・ロンダリング対策の沿革」
マネーロンダリングでよくみられる方法は、薬物取引や組織犯罪により得られた犯罪収益を、無関係のように思われる銀行口座に送金するなどして、犯罪収益と特定できなくすることです。
このようなことをされると、そもそも犯罪収益を発見できなくなりますし、たとえ見つけたとしても没収などで取り上げることが困難になります。
結果、次の組織犯罪やテロなどの資金源となってしまうのです。このような事態を防ぐために、マネーロンダリングそのものを防止することが重視されています。
特定事業者による措置
「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(犯収法)では、銀行や保険会社などを「特定事業者」と定めています(犯収法第2条第2項)。
特定事業者は、犯収法の別表に定める特定業務のうち特定取引を行うに際しては、本人特定事項などを確認しなければなりません(犯収法第4条第1項)。
顧客等や代表者等は、特定事業者がこの取引時確認を行う場合、その特定事業者に対し、取引時確認事項を偽ってはなりません(同法第4条第6項)。特定事業者は、顧客等がこの取引時確認に応じなければ、応じるまでの間、その取引等に係る義務の履行を拒むことができます(同法第5条)。
そして、特定事業者は、特定業務に係る取引について、当該取引において収受した財産が犯罪による収益である疑いがあるかどうか、組織犯罪処罰法や麻薬特例法に定める犯罪収益の隠匿を行っている疑いがあるかどうかを判断し、これらの疑いがあると認められる場合には、行政庁に届け出なければなりません(同法第8条第1項)。
行政庁は、特定事業者がこれらの規定に違反していると認めるときは、当該特定事業者に対し、当該違反を是正するため必要な措置をとるべきことを命ずることができます(同法第18条:是正命令)。
なお、犯収法第2条第2項の「特定事業者」には弁護士も含まれます(同項第45号)が、取引時確認等や疑わしい取引の届出等の義務を負う者からは除かれています(犯収法第4条第1項)。
弁護士の職務は依頼人との信頼関係が根幹となっており、依頼人に犯罪があると思料したら通報せよなどという義務を課されては、信頼関係など築くことができず、弁護が成り立たなくなるためです。
一方で、社会正義の実現を使命とする弁護士としては、マネーロンダリングに利用されるような事態は防がなければなりません。そこで、「政府及び日本弁護士連合会は、犯罪による収益の移転防止に関し、相互に協力するものとし、」日弁連会則で定めるところにより、本人特定事項の確認等が行われます(同法第11条第1項)。各弁護士も「本人特定事項の確認」などを徹底し、犯罪収益からは弁護士費用の支払いを認めない旨を委任契約書に明記する、などの対策をとってマネーロンダリングに利用されないようにしています。
マネーロンダリングに対する処罰
犯罪収益等の取得若しくは処分につき事実を仮装し、又は犯罪収益等を隠匿した者は、10年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます(組織犯罪処罰法第10条第1項)。
また、情を知って、犯罪収益等を収受した者は、7年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます(同法第11条)。法人の代表者や使用人が法人の業務に関してこれらの罪を犯したときは、行為者だけでなく、法人もそれぞれの条項に定められた罰金刑を科されます(同法第17条)。
薬物犯罪に係る犯罪収益については「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」(麻薬特例法)により同様に処罰されます。薬物犯罪収益等の取得若しくは処分につき事実を仮装し、又は犯罪収益等を隠匿した者は、10年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます(同法第6条第1項)。
また、情を知って、薬物犯罪収益等を収受した者は、7年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます(同法第7条)。法人の代表者や使用人が法人の業務に関してこれらの罪を犯したときは、行為者だけでなく、法人もそれぞれの条項に定められた罰金刑を科されます(同法第15条)。
犯収法は、マネーロンダリングにつながる危険性の高い行為を処罰します。前述の是正命令に違反したときは、当該違反行為をした者は、2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科します(犯収法第25条)。法人の代表者や使用人等が法人の業務に関してこの違反行為を行った場合、法人も3億円以下の罰金刑を科されます(同法第31条第1号)。
また、顧客等又は代表者当の本人特定事項を隠蔽する目的で、取引時確認に際し取引時確認事項を偽ったときは、当該違反行為をした者は、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科します(同法第27条)。法人の代表者や使用人等が法人の業務に関してこの違反行為を行った場合、法人も同じ罰金刑を科されます(同法第31条第3号)。
弁護を受けられなくなる?
上記のように、現在においては、弁護士には法律上本人特定事項等の確認や疑わしい取引の届出は義務づけられていませんが、日弁連の会則にのっとり、「本人特定事項の確認」などを徹底し、マネーロンダリングに利用されないようにしています。
そのため、マネーロンダリングの疑いがある状況では、弁護士への依頼も困難となってしまいます。
まとめ
このように、企業がマネーロンダリングに関わったとみなされると、重い刑罰を科されるなど大変な不利益をこうむります。そのため、このようなマネーロンダリングが行われないようにすることが大切です。
マネーロンダリング対策,防止にお悩み・お困りの方は、こちらから弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までご相談ください。
【事件解説】同族会社の違法な乗っ取り事件について詳しく解説
同族会社の違法な乗っ取り事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が具体例を交えながら詳しく解説します。
事件の概要
甲は、ある飲食店を経営する株式会社のα社(創業昭和60年)の代表取締役であり、長男Aと次男Bがそれぞれ同社の取締役を、Aの妻が監査役を務めていました。令和5年の春頃になると、甲が認知症と診断され施設に入所することとなり、実質的な経営は、AとBが共同で行うことになりました。なお、同社は資本金1000万円、持ち株比率は、甲が50パーセント、A、Bがそれぞれ25パーセントであり、株式について譲渡制限のある非公開の中小企業です。
最初の頃は、AとBが協力しあい経営も順調でしたが、同年秋頃から、AとBとの間で、α社の経営方針について激しく対立するようになっていきました。その後、甲の認知症はますます悪化し、もはや、A、Bが自分の実子らであることさえ認識できない状況に陥っていたのですが、年が明けた令和6年1月の小正月も終わったころ、突然、Bは、Aから「もうお前はうちの会社の役員でも何でもないし、仕事に来なくいていいから。」と言われたのです。寝耳に水のBは、これを聞いて大変に驚き、Aに説明を求めますが全く相手にしてくれません。
さて、Bはどうすればいいでしょうか(実在しないフィクションの事案です)。
解説
そもそも、Bの身には一体何が起きたのでしょうか。
α社は、資本金1000万円で、株主の甲、A、Bの3人の親族で同社の発行済株式の100パーセントを保有しています。法人税法上、会社の株主等の上位3株主グループが、その会社の発行済株式総数の50パーセントを超える株式を保有している場合、その会社を同族会社といいます。α社は、まさにこの同族会社に当たるわけです。この同族会社というのは法人税法上の分類ですが、こうした同族会社は、税法上の取り扱いとしてだけではなく、事実上も様々な特徴があります。そのうちの一つが、本事例で紹介したような親族間による違法な乗っ取りリスクです。
通常、定款に特別の定めがなければ、議決権の過半数を有する株主が出席する株主総会で、出席株主の議決権の過半数が、取締役の解任に賛成したときに、その取締役の解任が可能となります(会社法339条1項、341条)。
ご紹介した事案で、Bの取締役を解任するためには、α社の持ち株を25パーセントしか保有していないAの単独では、Bを適法に解任することは困難です。Bを解任するには、甲の50パーセントの持ち株をBの解任決議の議決権に加算する必要があるわけです。ところが、甲は認知症が悪化してAとBが自分の息子であることさえ認識できない精神状態になっていたわけですから、議決権行使などできるはずがありません。
結局、Aは、Bを経営から排除するために、勝手に臨時株主総会を開いたことにして、甲とAで、Bの取締役を解任する決議について賛成した議決権を行使した臨時株主総会議事録等を偽造し、Bの取締役の解任についての登記申請をしていたわけです。
Aに対する責任は
Aは、実在しない臨時株主総会議事録を勝手に作成し、その内容も、まともな意思表示さえできない甲が、Bの取締役解任決議について賛成する議決権を行使したとする虚偽の事実を記載しています。
このような書面等を作成し、これを登記申請のために法務局に提出する行為は、有印私文書偽造・同行使という犯罪に当たり、その法定刑は3月以上5年以下の懲役となります(刑法159条1項、161条1項)。また、さらに、これによって、法務局において真実と異なる商業登記の記録がなされるなどした場合は、公正証書原本等不実記録という罪に問われ、その法定刑は5年以下の懲役又は50万円以下の罰金となります(刑法157条1項)。
民事責任としても,Aは、Bに対し、上記犯罪行為について不法行為責任を問われ、損害賠償責任を負うことになります(民法709条)。
Bは、どのような対応をとるべきでしょうか
Bは、Aによる違法な会社の乗っ取り行為の兆候などに気付いたら、直ちに弁護士に相談し、適切な対応をとるべきです。
登記申請がされているとすれば、まずは登記手続を止める必要があります。そのためには、訴訟などという悠長なことはやっていられません。
真実と異なるとは言え、一旦、不実の登記がなされてしまえば、長期間に及ぶ訴訟で結果が出るまで、その登記はそのまま維持をされてしまいます。また、民事訴訟においては、原則として主張する側に立証責任があるため、そこに正義と真実があったとしても、仮に立証に失敗すれば負けてしまいます。
そんな憂き目をみないためにも、まずは仮処分です。仮処分とは、訴訟に先立ち短期間で裁判所の仮の判断を得て、登記手続を止める(却下など)ことができます。仮処分は裁判所の暫定的な判断ではありますが、極めて迅速かつ強力な効果を持っています。ただし、この仮処分は、被保全権利といって、守られるべき権利の特定や仮処分の必要性やその疎明資料(証拠資料となりうるもので裁判官に一応確からしいとの心証を与える資料)の収集など高度な法律的な判断や処理が必要となります。
また、他方で、この仮処分の手続と並行して、上述した刑事責任の追及という観点から、必要に応じて、刑事告訴・告発などの手続を進めていくことになります。
こうした法律的に高度な判断と処理をしていくためには、これらのことに精通した弁護士に依頼することが必要となります。
あいち刑事事件総合法律事務所には、これらのことに精通した弁護士が多数在籍しております。このような事態にいたったときは、是非、弊所にご相談ください。
HPのかたはこちらからお問い合わせいただけます。
法務問題へのコンプライアンス体制の構築①
【事例】
Aさんは、佐賀県唐津市で水産加工業を営む会社であるⅩ社の従業員です。
Ⅹ社では、インターネットでの通販を利用して自社の水産加工品を日本全国に販売することを目指しています。しかし、Ⅹ社は、これまで自社の直売所での販売と地元の小売店への販売しかしていませんでした。そのため、インターネット通販のサイトを開設する必要もあると考えていますし、購入された水産加工品を安全に消費者に届けなければいけませんし、消費者への輸送手段も確保せねばなりません。
このような山積する課題に対応する一環として、Ⅹ社では法務部を新設することになり、Aさんがそこの責任者となりました。
Aさんが法務部の責任者として最初に会社から指示された仕事は、X社のコンプライアンス体制を構築することでした。しかし、Aさんは弁護士資格を有しているわけではありませんでした。また、X社にはこれまで顧問として付いてもらっていた弁護士もいません。
そこで、Aさんは、Ⅹ社のコンプライアンス体制を構築するにあたって、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
1 コンプライアンスとは
コンプライアンス体制を構築する大前提として、まずはコンプライアンスとは何かについて解説していきます。
コンプライアンス(compliance)とは、一般的に「法令遵守」と日本語訳されることが多いです。
「遵守」とは、決められたことを守ることです。
それでは、コンプライアンスとは、法令、つまり、法律を守ることだけを指すのでしょうか。
現在、コンプライアンスという言葉で求められているのは、単に法律を守ることだけではなく、社会規範や社会道徳などといったものまで含めて、そういったルールを守ることだと解されているように思われます。
より具体的には、民法や労働基準法、会社法、刑法といった法律だけではなく、就業規則などといった会社内で定められているルールはもちろん、職務上守るべき企業倫理、道徳規範をも守ることが求められているように思われます。
2 コンプライアンスが強く求められるようになった背景
コンプライアンスが強く求められるようになった背景としては、言葉自体が世間一般に浸透しているかは別として、企業の社会的責任(CSR)という考え方が浸透してきたことが挙げられるでしょう。
例えば、発展途上国の児童が、学校に行くこともできずに、コーヒー農園で働いていて、その商品を安価で購入している企業がいた場合に、その企業の姿勢に疑問を持つ人々も増えてきているのではないでしょうか。
フェアトレードをすべきだという問題としても知られてきています。
また、国内に目を移しても、長時間労働を強いる会社、いわゆるブラック企業に対する非難の目も強まってきているのではないでしょうか。
このような社会全体としての意識の積み重ねが、企業の社会的責任(CSR)を求める風潮に繋がり、そのような責任を果たしていない場合に、コンプライアンス違反であるとして社会から非難される事態を招いているのではないでしょうか。
もちろん、企業は、根本的には事業を通じて利益を追求する組織です。
利益を追求すること自体は問題があるわけではありません。
しかし、利益を得る、特に継続的に利益を得るためには、取引相手やその先にいる一般消費者の意思を無視するのは得策ではないのではないでしょうか。
その意味でも、コンプライアンスは重要だといえるでしょう。
今回は、コンプライアンス体制の構築に関して、コンプライアンスとは何かなどについて解説していきました。この続きは今後の記事で解説していきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、そもそも会社内で不祥事を起こさないための対応・アドバイスにも力を入れています。
コンプライアンス体制の構築などについてアドバイスをご希望の方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にこちらからご相談ください。
押収された会社所有のパソコンを返してもらえる? 押収物の還付請求について
事例
A社は派遣業を営んでいました。A社では社員に対してパソコンを貸与しており、その中には派遣先の企業や登録者のデータが保存されていました。
A社の社員であるBさんは、通勤中の電車内でスマホを使用して盗撮を行っており、撮影したデータをあろうことか会社で貸与していたパソコンに保存していました。
Bさんは、ある日盗撮をしていた現場で現行犯逮捕されてしまいました。
その後Bさんが盗撮していた動画を会社で貸与されたパソコンに保存していたことを自白したため、A社に捜索が入りBさんに貸与していたパソコンを盗撮事件の証拠品として押収していきました。
Bさんは、その後勾留されずに在宅捜査に切り替わりましたが、それから2か月たっても証拠品であるパソコンは返却されないままでした。
A社の代表は、このままパソコンが返されなければ業務に支障が出るとして、あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に対応を相談しました。
(事例はフィクションです)
証拠品の返還を求める手続について
刑事事件があった場合に、証拠として物品を押収(捜査機関の手元に置いておくこと)することについては刑事訴訟法に根拠が書かれています。
そして、押収された証拠品の返還を求める手続きについても刑事訴訟法に規定があります。
このような押収された証拠品の返還を求める請求のことを、証拠品の還付請求と言います。還付請求に関する根拠条文は以下の通りです。
刑事訴訟法第123条
1項 押収物で留置の必要がないものは、被告事件の終結を待たないで、決定でこれを還付しなければならない。
2項 押収物は、所有者、所持者、保管者又は差出人の請求により、決定で仮にこれを還付することができる。
3項 押収物が第110条の2の規定により電磁的記録を移転し、又は移転させた上差し押さえた記録媒体で留置の必要がないものである場合において、差押えを受けた者と当該記録媒体の所有者、所持者又は保管者とが異なるときは、被告事件の終結を待たないで、決定で、当該差押えを受けた者に対し、当該記録媒体を交付し、又は当該電磁的記録の複写を許さなければならない。
第222条
…第118条から第124条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が…する押収又は捜索について…これを準用する。ただし、司法巡査は、第122条から第124条までに規定する処分をすることができない。
刑事訴訟法123条は被告事件すなわち起訴された件に関する証拠品の還付請求について定めた条文ですが、刑事訴訟法222条で押収または捜索について準用していますので、捜査中に押収された証拠品についても123条の規定は適用されます。
そこで、還付請求が認められるかどうかにつき問題になるのが123条1項の「留置の必要がないもの」の解釈になります。
捜査機関は実際は捜査が進んで返せる状況にあるにもかかわらず、事件の処分が出た時に返せばいいやという感じで積極的に還付をしてくれない場合があります。
還付請求においては、留置の必要がないことについて説得的に主張することが重要になります。
事例における刑事弁護や物の押収に関する弁護人としての主張など、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では刑事事件に精通した弁護士がアドバイス差し上げられます。
刑事事件に関連してお困りの方は、こちらからお問い合わせください。
留置の必要があるかの判断について
本件のような捜査中の場合には、まだ刑事処分をどうするか決めていない状況なので、留置の必要がないことを主張することは容易ではありません。
証拠品を当事者に返すことで証拠の隠滅や改ざんを行われ捜査に支障が出るおそれがあると考えられるためです。
たとえば本件のように、犯罪に関するデータを保存したパソコンについては、一定期間が経過したことでデータの確認作業や移動は終わっているはずであり、本人に返還したとしても改ざんや証拠隠滅の恐れはないと主張することが考えられます。
また今回のようなケースでは盗撮された被害者の保護の観点から警察が返還を渋る可能性もあるので、当該盗撮データについては、速やかに任意での削除に応じる代わりにパソコンの返却を求めるように交渉することも考えられます。
警察や検察が証拠品の還付を拒否した場合の対応について
警察や検察は還付請求に対して応じる義務はないので、「捜査中だから返せない」などと単純な回答により返還を拒否することがほとんどかと思います。
この場合には裁判所に対して申立てを行うことが考えられます。
具体的には、警察や検察が還付請求を拒否したこと(還付請求に対する却下処分)に対して準抗告を申し立てることになります。
今回の事例では被疑者ではないが、所有物の押収を受けたA社が準抗告を申し立てることができるか問題になり得ますが、これは最高裁で肯定されています(最高裁平成15年6月30日決定https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50072)。
仮にこの申立てが認められれば、裁判所から捜査機関に対して還付するように命じられるので、証拠品はA社のもとに返還されることになります。
準抗告では留置の必要がなくなっていることを、捜査の経過などから丁寧に主張していく必要があります。
現代では事業の遂行においてパソコンやスマートフォンの使用は必須であり、これが一定期間返還されないことは会社経営の根幹を揺るがす事態になりかねません。
今回の事例のような状況に陥らないためにも、会社や会社の従業員らが刑事事件の当事者とならないように対策することは重要です。
ですがもし刑事事件に関与してしまい、会社のパソコンやスマートフォンが押収される事態になった場合には、捜査機関や裁判所に対し上記で解説したような適切な対応を早期に行っていく必要があります。
弊所では顧問契約を準備させていただいております。平時からの企業のコンプライアンス対策から、緊急時の捜査機関への対応まで、刑事事件に精通したあいち刑事事件に是非お任せください。
コンプライアンス意識の周知と教育の重要性
現代社会において、企業犯罪や社員の不祥事が頻繁に発生しています。これらの問題を未然に防ぐためには、企業におけるコンプライアンス教育が極めて重要です。
コンプライアンスとは、法令遵守のみならず、倫理観や社会的規範に基づいた公正・公平な業務遂行を意味します。本記事では、コンプライアンス教育の重要性について、事例を交えながら解説します。
事例
コンプライアンス違反が企業に与える影響は甚大です。例えば、ある企業でのデータ漏洩事故は、顧客の信頼を大きく損ね、最終的には株価の大幅な下落につながりました。
コンプライアンス違反のリスクが単に法的な問題に留まらず、企業のブランド価値や経済的な損失に直結することが理解できます。また、社会的信用の失墜は、従業員のモラル低下や優秀な人材の流出を引き起こす可能性があり、企業の持続可能な成長を脅かす要因となり得ます。
この事例を踏まえ、次にコンプライアンス教育の必要性について詳しく解説していきます。
コンプラインス教育の必要性
現代社会では、情報の拡散速度が格段に速くなっています。
特にSNSの普及により、企業の不祥事や犯罪が発生した際、その情報が瞬時に広まり、企業の評判を大きく損なうことがあります。
このような背景から、コンプライアンス教育の重要性は年々高まっています。
企業が社会的責任を果たし、信頼を維持するためには、従業員一人ひとりが法令を遵守し、倫理的な判断ができるようになることが不可欠です。
そのためには、新入社員の初期研修から始まり、定期的な研修を通じて、コンプライアンスの知識と意識を高めることが求められます。
また、研修は単に法令やルールを暗記するのではなく、実際の事例をもとにしたディスカッションやワークショップを取り入れることで、より実践的な理解を深めることが重要です。
コンプライアンス教育を通じて、従業員が自らの行動が企業に与える影響を深く理解し、正しい判断ができるようになること。
これが、現代社会における企業が持続的に成長し、社会から信頼されるための基盤となります。
ご不安事やコンプライアンス体制についてご心配事のある方は,こちらからお問い合わせください。
コンプライアンス違反のリスク
コンプライアンス違反が企業に及ぼすリスクは計り知れません。
最も直接的な影響は、法的制裁や罰金などの財務的損失です。
しかし、それ以上に深刻なのが、企業の信用失墜による長期的な影響です。
一度失われた信頼を取り戻すことは非常に困難であり、不祥事が公になれば、顧客離れや不買運動に発展することもあります。
また、社内においても、不祥事によるモラルの低下や、優秀な人材の流出が起こる可能性があります。
これらはすべて、企業の持続可能な成長を著しく阻害する要因となり得ます。
さらに、コンプライアンス違反は、企業の社会的責任(CSR)に対する評価を下げることにも繋がります。
現代の消費者は、製品やサービスの品質だけでなく、企業が社会に対してどのような影響を与えているかにも敏感です。
そのため、コンプライアンス違反は、企業のブランドイメージに長期的な損害を与えることになります。
このように、コンプライアンス違反は、ただちに修復が困難な多方面にわたるリスクを企業にもたらします。
従って、企業はコンプライアンス教育を通じて、これらのリスクを最小限に抑える努力を怠ることができません。
コンプライアンス研修の実施方法
コンプライアンス研修の実施方法は、その対象となる従業員の役職や経験に応じて異なります。
新入社員には、社会人基礎としてのコンプライアンスの理解を深めるための研修が必要です。
一方で、役員や管理職には、リーダーとしての責任と役割に焦点を当てた研修が求められます。
研修の内容は、法令遵守だけに留まらず、企業倫理や社会的責任についてもカバーする必要があります。
また、実際の事例を用いたグループディスカッションやロールプレイングなど、参加者が積極的に関わることのできるプログラムを取り入れることが効果的です。
研修は、ただ情報を提供するだけではなく、参加者がコンプライアンスの重要性を自ら認識し、日常業務において正しい判断ができるようになることを目指すべきです。
そのためには、研修の内容を定期的に更新し、最新の法令や社会情勢に即した情報を提供することが重要です。
さらに、研修の効果を最大化するためには、研修後のフォローアップが欠かせません。
研修で学んだ内容を実務にどのように活かしているか、定期的なフィードバックや追加研修を通じて確認することで、コンプライアンス教育の持続的な改善を図ることができます。
コンプライアンス研修は、単なる義務遂行ではなく、企業文化の一部として根付かせることが最終的な目標です。従業員がコンプライアンスを自然と意識し、日々の業務に反映させることができるような研修プログラムの構築が求められます。
専門家によるアドバイスの重要性
コンプライアンス教育を成功させるためには、専門家によるアドバイスが不可欠です。
弁護士やコンプライアンス専門家は、法律の専門知識を持ち、企業が直面するリスクを正確に評価することができます。
彼らの知見を活用することで、企業は実効性のあるコンプライアンスプログラムを構築し、運用することが可能になります。
専門家によるリスク評価
専門家は、企業の業種や規模、過去の事例などを踏まえた上で、具体的なリスクを評価し、対策を提案します。
このプロセスを通じて、企業は潜在的な問題を事前に特定し、適切な予防策を講じることができます。
カスタマイズされた研修プログラムの開発
専門家は、企業の特定のニーズに応じた研修プログラムを開発することができます。
法律や規制の変更に迅速に対応し、最新の情報を研修に反映させることが可能です。
継続的なサポートとアップデート
コンプライアンスは一度きりの取り組みではなく、継続的な努力が必要です。
専門家は、定期的なレビューとアップデートを通じて、企業のコンプライアンスプログラムが常に最新の状態を保つようサポートします。
従業員への信頼性の高い情報提供
専門家による研修は、従業員に対して信頼性の高い情報を提供します。
法律や規制に関する正確な解釈を学ぶことで、従業員は自信を持って業務に取り組むことができます。
専門家によるアドバイスとサポートを受けることで、企業はコンプライアンス違反のリスクを最小限に抑え、社会的責任を果たすことができます。
コンプライアンス教育は、単に法律を遵守すること以上の意味を持ち、企業文化の根幹を形成するものです。
専門家の知見を活用することで、企業は持続可能な成長と社会からの信頼を築くことができます。
コンプライアンスの相談は弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へ
コンプライアンスに関する課題は、企業運営において避けて通れない重要な要素です。
不確実な法的環境の中で、適切なコンプライアンス体制を構築・維持することは、企業にとって大きな挑戦となります。
このような状況において、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件について豊富な経験と専門知識を持つ弁護士による確かなサポートを提供します。
私たちは、コンプライアンス違反によるリスクを最小限に抑えるための戦略的アドバイス、法律相談を通じて、企業の皆様を全面的にサポートいたします。
また、不祥事が発生した際の対応策や、事後のリスク管理に関しても、専門的な視点から具体的なソリューションを提案します。
コンプライアンスは、単に法律を遵守すること以上の価値を企業にもたらします。
企業文化としてのコンプライアンスを根付かせることで、社会からの信頼を獲得し、持続可能な成長を実現することができます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、その過程で企業の皆様を強力にバックアップします。
コンプライアンスに関するご相談がございましたら、ぜひ弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までお気軽にお問い合わせください。
私たちは、企業の皆様が直面するあらゆる課題に対して、最適な解決策をご提案いたします。
こちらからお問い合わせください。
企業の贈収賄事件-東京オリンピックの贈収賄事件を基に
企業が公務員に賄賂を贈ってしまった事件について解説。
東京オリンピックにおける贈収賄事件など、贈収賄が大きな問題となっています。
ここでは、企業のかかわる贈収賄事件について解説します。
贈賄
収賄、受託収賄および事前収賄(刑法第197条)、第三者供賄(同法第197条の2)、加重収賄および事後収賄(同法第197条の3)、あっせん収賄(同法第197条の4)の罪において規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処されます(刑法第198条)。
賄賂とは
「賄賂」とは、公務員の職務行為と対価関係にある利益を言います。この対価関係は、職務行為に対するものであれば足り、個々の職務行為と賄賂との間に対価関係のあることは必要とされていません(昭和33年9月30日最高裁第三小法廷判決)。職務に関するものであれば、交付時期や利益の多寡にかかわらず、賄賂となります。
賄賂の内容は金銭に限られず、人の欲望や需要を満たす一切の利益が含まれます。判例では、芸妓の演芸や、酒食の饗応、異性間の情交、公私の職務等の有利な地位の保証、株式の取得の利益、など、様々なものが賄賂と認定されています。このような利益を公務員に提供すれば公務員の職務の公正は害され、あるいは公務員の職務の公正に対する社会の信頼は損なわれてしまうため、処罰する必要があります。
東京オリンピックの贈収賄事件においても、会社の代表取締役であった者が、みなし公務員である組織委員会の元理事に賄賂を供与したとして起訴され、有罪判決を受けています(東京地裁令和5年7月12日判決)が、この事件では、元理事が、被告人が代表取締役を勤める会社との間のコンサルティング契約に基づき毎月のコンサルティングフィーを支払うという形で賄賂の供与がされていたと認められました。
「職務に関し」たといえるか
前述のとおり、賄賂は職務行為と対価関係にある必要がありますので、職務とは無関係な利益の提供は賄賂には当たりません。東京オリンピックの汚職事件で参考人として聴取を受けた元総理大臣は贈賄で有罪判決を受けた被告人の属する会社から現金の提供を受けたという報道がありましたが、これは病気に対する見舞金の可能性もあると言われていました。
また、単なる社交儀礼上の贈答は「賄賂」にあたりません。
東京オリンピック組織委員会元理事は、コンサル契約に基づいてコンサル料が支払われたもので賄賂ではないと主張しているとのことですが、これまでの収支はどうであったか、コンサル依頼があったとしてもそれ自体職務に関係するものか、依頼があった後の活動実態はどうだったか、などを考慮して、賄賂かどうかが判断されるでしょう。
収賄罪の成立の可能性
これまで贈賄罪について解説してきましたが、公務員でない会社の役員・従業員だからといって、収賄罪が成立しないとは限りません。公務員と共謀して賄賂を収受したと認められれば、収賄の共犯者として、収賄罪により処罰されます。
例えば、贈賄側の企業と交渉をしたり、公務員の代わりに賄賂を受け取って公務員から分け前をもらうような場合です。この場合、公務員に協力した者自身には公務員という身分がなくても、共犯となります(刑法第60条第1項)。東京オリンピックの贈収賄事件においても、会社の代表取締役であった者が、元理事と共謀の上、元理事の職務に関し賄賂を収受したとして、有罪判決を受けています(東京地裁令和5年7月4日判決)。
企業の責任
以上は、実際に贈収賄に加担した個人に成立する犯罪の問題です。
贈賄罪は特別法のような両罰規定がないため、企業は責任を問われません。
一方で、こうした案件では、企業の経営者が状況を把握したうえで指示をしていたと認められるでしょう。そうすると、単に個人の暴走ではなく、企業として行ったものとみなされ、強い社会的非難にさらされるでしょう。
また、会社の代表役員等が贈賄の容疑により、逮捕され、又は逮捕を経ないで起訴される等した場合、官公庁から公共事業の入札等で指名停止措置を受けることがあります。各省庁や各地方公共団体が、指名停止について基準を定めています。
・参考
国土交通省「工事請負契約に係る指名停止等の措置要領」
https://www.mlit.go.jp/common/001067886.pdf
まとめ
このように、企業が公務員に対し利益を供与すると、贈収賄に該当し、重大な事態に陥る可能性があります。自社の行っていることが贈賄等に当たらないかお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。
お電話の方は0120-631-881から,HPの方はこちらからお問い合わせください。
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