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1 はじめに
国から事業者(個人、法人問わず)に対して、様々な補助金が支給されています。
例えば、雇用調整助成金、キャリアアップ助成金、IT導入補助金、事業承継・引継ぎ補助金、新市場開拓支援事業費補助金など、枚挙に暇がありません。
これらの多種多様な補助金について、不正な申請や不正使用の防止、交付決定の適正化を図ることなどを目的としているのが「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」(略称:補助金適正化法)です。
補助金の受給に関して、よく問題となるのが不正申請、不正受給に関するものです。
補助金適正化法では、不正受給に対して厳しい罰則を設けています。
ここでは、補助金適正化法違反の罪について見ていきましょう。
2 補助金とは
そもそも「補助金」とは何でしょうか。
実は「補助金」それ自体の定義は補助金適正化法には規定されていません。
第2条1項 この法律において「補助金等」とは、国が国以外の者に対して交付する次に掲げるものをいう。
一 補助金
二 負担金(国際条約に基く分担金を除く。)
三 利子補給金
四 その他相当の反対給付を受けない給付金であつて政令で定めるもの
補助金、負担金、利子補給金、反対給付を受けない給付金をまとめて「補助金等」と呼んでいます。
ここで注意が必要なのは、「国が国以外の者に対して交付する」もののみが、補助金適正化法の規制を受けるということです。
ですので、都道府県や各種団体が独自に支給している補助金は補助金適正化法の規制対象外となります。
3 補助金の不正受給
第29条1項 偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受け、又は間接補助金等の交付若しくは融通を受けた者は、5年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2項 前項の場合において、情を知つて交付又は融通をした 者も、また同項と同様とする。
補助金適正化法29条には、補助金の不正受給に関する罰則が定められています。
「偽りその他不正の手段」によって補助金の交付を受けた場合に成立します。
「偽りその他不正の手段」とは、例えば補助金申請書や添付資料の偽造などが挙げられます。
近年、雇用調整助成金の不正受給が問題となりましたが、「真実、従業員を休業させていないのに、休業しているかのように見せかけた資料を作成し、雇用調整助成金を受け取る」というようなことをすれば、「偽りその他不正の手段」に該当しうるでしょう。
また、不正な申請であることを知りながら、補助金を交付した場合には、交付した者も処罰対象とされています。
法定刑はいずれの場合も、5年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又はその併科です。
4 補助金の目的外利用
第30条 第11条の規定に違反して補助金等の他の用途への使用又は間接補助金等の他の用途への使用をした者は、3年以下の懲役若しくは50万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
補助金の支給を受けた者は、善良な管理者の注意をもって補助事業等を行わなければならず、補助金等の他の用途への使用をしてはならないとされています(補助金適正化法11条)。
これに違反して、補助金を別の用途に使用してしまった場合には目的外利用として刑罰の対象となってしまいます。
例えば、IT導入補助金は、生産性向上のためのソフトウェア購入費やクラウド利用費などに対する補助金です。なので、IT導入補助金をそれら以外の用途に費消してしまえば、目的外利用となってしまいます。
法定刑は3年以下の懲役若しくは50万円以下の罰金又はその併科です。
5 命令違反等
第31条 次の各号の一に該当する者は、3万円以下の罰金に処する。
- 第13条第2項の規定による命令に違反した者
- 法令に違反して補助事業等の成果の報告をしなかつた者
- 第23条の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して答弁せず、若しくは虚偽の答弁をした者
各省庁の長は、補助金を受けた事業者に対して、適正に補助事業遂行をすべきことを命令することができ、その命令に違反した場合には補助事業遂行の一時停止命令をすることもできます(補助金適正化法13条1項2項)。
また、各省庁の長は、補助金予算の適正を期すために必要がある場合には、立入検査をすることもできます(補助金適正化法23条1項)。
これらの命令に違反した場合や、立入検査を拒否した場合にも、刑罰の対象となります。
法定刑は3万円以下の罰金と、非常に軽いです。
6 法人処罰規定
第32条1項 法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定のあるものを含む。
以下この項において同じ。)の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前3条の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、当該法人又は人に対し各本条の罰金刑を科する。
2項 前項の規定により法人でない団体を処罰する場合においては、その代表者又は管理人が訴訟行為につきその団体を代表するほか、法人を被告人とする場合の刑事訴訟に関する法律の規定を準用する。
補助金適正化法には、法人処罰規定も置かれています。
例えば、A社の従業員XがA社のために補助金の不正申請をし、給付を受けたような場合には、申請を担当したXが不正受給の罪に問われるだけでなく、A社も処罰の対象となります。
7 補助金の不正受給と詐欺罪
虚偽の申請や偽造された書類を用いて補助金の給付を受けた場合、国を被害者とする詐欺罪が成立する可能性もあります。
詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役です。
なので、補助金適正化法違反よりも、詐欺罪のほうが重いということになります。
では、補助金適正化法違反の不正受給と詐欺罪はどのような関係にあるのでしょうか。
令和3年6月23日の最高裁決定では、被告人の行為が補助金適正化法29条1項違反の罪に該当するとしても、裁判所は当該行為について詐欺罪を適用することができると解することが相当であるとする1審・2審判決を支持しています。
理由としては
- 「偽りその他不正の手段」は詐欺罪における騙す行為よりも広い
- 詐欺罪の成立には錯誤が必要だが、補助金適正化法では錯誤は要求されておらず、成立要件が緩い
- 不正受給の範囲は不正の手段と因果関係がある部分に限定される
これらのことからすれば、不正受給と詐欺罪は一方が他方を包摂するような関係にはないとしています。
また、 - 補助金適正化法は国庫の損失防止を目的としており、より重い詐欺罪の成立を否定する趣旨までは含まれない
- 国からの補助金には補助金適正化法の不正受給罪しか成立しないとすると、都道府県からの補助金には詐欺罪しか成立しないため、刑罰の不均衡が生じる
ということも挙げられています。
ですので、補助金適正化法違反の不正受給と詐欺罪は、どちらも成立しうるということになります。
実務上は、より重い詐欺罪で処理されることが多いのではないでしょうか。
8 補助金適正化法違反と事業者の対応
従業員等が補助金適正化法違反を起こしてしまった場合には、事業者(事業主)も適切な対応をとる必要があります。
補助金の不正受給は大きな社会問題にもなっていますし、組織性なども疑われる可能性が非常に高いです。
事業者の対応としては、大前提として不正受給は絶対にしないようにしましょう。
ご自身の事業内容が補助金の受給対象なのかをしっかりと確認し、適切な資料を揃えるようにしましょう。
仮に、不正受給等をしてしまった場合には、早期に返還資金を準備するとともに、返還手続きや適切な捜査対応をしていく必要があります。
特に、補助金適正化法には法人処罰規定もありますので、個人だけでなく法人も責任を負うことになります。
株式会社の場合には株主対応も必要となります。
このように、適切な対応をしていくためには専門的な知識がある弁護士の助力は必須となります。