このページの目次
被害届か告訴か
従業員や役員の不正が発覚した場合、会社としては不正をした従業員等に対して刑事処罰を与えてほしいと考えることもあると思います。
刑事処罰を与えるためには、捜査機関に捜査をしてもらった上で、刑事裁判で有罪としてもらわなければなりません。
捜査機関に捜査を開始してもらうために会社が取りうる方法としては、捜査機関に対する被害届の提出や告訴が考えられます。
被害届の提出と告訴の違いは、被害届の提出は「会社が被害に遭った旨の申告」にとどまるのに対して、告訴は「犯人の刑事処罰を求める」というところまで意思表示をすることに違いがあります。
また、被害届の提出をしたからといって、必ず捜査が開始されるわけではありませんが、告訴が受理された場合には必ず捜査を開始しなければならないという点にも違いがあります。
そのため、会社として不正をした従業員等に対して毅然とした態度を示すためには、被害届の提出ではなく、告訴をする方がよいということができます。
告訴をする際の注意点
告訴をする際には、以下のような点について検討しておく必要があります。
①告訴受理に向けた証拠の収集
告訴をしようとしても、捜査機関は犯罪の証拠がないとして告訴を受理しないことが多くあります。
特に会社が被害者となる可能性の高い詐欺や役員による特別背任、従業員による業務上横領などについては、契約書や請求書、領収証その他取引に関する資料、会計帳簿や決算書などの経理に関する資料などの客観的な証拠のほか、関係者への聴き取り内容なども含めて証拠を集めて、犯人や犯罪をある程度証明できるというレベルの資料を告訴とともに提出しないと受理してくれないことがほとんどです。
②告訴状の作成
告訴は法律上、捜査機関に対して口頭でも可能ですが、多くの場合は口頭では受け付けてくれません。
そのため、告訴状を作成して捜査機関に提出し、受理をしてもらうという流れが一般的です。
もっとも、単純に「Aさんが業務上横領をしているから処罰してほしい」などと記載した告訴状では受理される可能性はかなり低いでしょう。
犯人及び犯罪の証明に足る証拠を収集した上で、それを法律的に検討し、どのような罪にあたるのか、犯罪行為の態様や期間、損害の額などをある程度明確に記載するとともに、告訴を受理すべきであることを説得的に述べていく必要があります。
③告訴する先
告訴は捜査機関に対して行いますが、告訴する先を警察にするのか検察にするのかも大きなポイントです。
告訴する先を警察とするか検察とするかにより、告訴後の捜査手続きの進め方やその進捗の速度に差異が生じる可能性があります。
一般的には、告訴に係る法律違反の案件が、贈収賄事件、会社法上の特別背任罪、金融商品取引法違反などの広く社会経済にわたる特殊、専門性の高い案件である場合には、法律の解釈適用にわたる知識も捜査機関に高度に要求されるため、警察よりも検察に告訴することが多いです。
④告訴することによるリスク
告訴が受理されることにより、捜査が開始されますが、被害者である会社やその従業員に対しても捜査機関から事情聴取などの協力を求められるため、会社業務に支障が出る可能性があります。
また、報道されるリスクも考慮しなければなりません。特に従業員等が逮捕されることになった場合には、会社名を含めて報道される可能性があるため、事前に会社から報道発表や記者会見を開くなど、会社のイメージが損なわれないような対応をとっておく必要がある場合があります。
さらに、役員を告訴した場合には、組織再編を迫られる場合もあります。
M&Aを繰り返す可能性もあり、会社の性質が大きく変貌を遂げたり、会社の信用が落ちてしまったりすることもあることに注意が必要です。
不正をした従業員・役員を告訴したい
不正をした従業員・役員を告訴したいと考えている場合、告訴を受理してもらうために十分な調査と証拠収集や、証拠を検討した上での適切な告訴状の作成など、通常の会社業務とは全く異なる対応が必要になります。
また、告訴することによるリスクなども考慮しておかなければ、予想していなかったダメージを会社が負ってしまう可能性もあります。
不正が発覚した場合の対応を行う専門部署を設立しておいたり、対応マニュアルを事前に策定しておいたり、相談できる弁護士などの専門家とのつながりを作っておいたりといった体制を整えておくことにより、もしもの場合にも迅速に対応でき、会社へのダメージを最小限に抑えることが可能となります。
特に告訴をする場合には、法律的な観点から説得的に告訴を受理してもらえるような対応を行う必要があるため、法律の専門家である弁護士に対応を依頼するのが有効です。