
生成AI(画像生成AIやChatGPTなど)の登場により、企業の広告手法が飛躍的に拡大する一方で、想定外の炎上や法的リスクが生じています。2024年には生成AIを使った広告動画に対し「気持ち悪い」「買う気がしない」といった強い批判が集まり、社会的炎上でブランドイメージを損なう事例も発生しました。
さらに、AIが他者の著作物や人物の画像データを無断使用することで著作権や肖像権の侵害リスクが指摘されており、企業ブランドは従来にない法的問題に直面しています。
加えて、ディープフェイク技術によって企業代表者になりすました偽動画や偽音声が作成・拡散されれば、瞬く間に虚偽情報が広まりブランド信用の失墜や株価急落を招きかねないと警鐘が鳴らされています。
本記事では、AIと企業ブランドが直面する新たな法的リスクについて解説していきます。
このページの目次
事例:生成AI広告が炎上しブランド価値を失った企業の顛末
近年の具体的な事例として、日本航空(JAL)の高額クレジットカード紹介サイトで発生した炎上が挙げられます。
2025年8月、同カードの公式サイトに掲載された画像について、ポップコーンにストローが刺さっている、人の足が1本多いといった不自然な描写がSNS上で相次いで指摘されました。JAL広報によれば、これらはカード発行に関わる会社及びその業務委託先が生成AIで作成した画像でした。
JALには、AI生成コンテンツを顧客向けに用いる際に倫理審査を行う仕組みがあったものの、今回はその審査が適用されておらず、審査の必要性が社内に十分浸透していなかったとして陳謝しています。
この顛末は、安易なAI活用が企業にもたらすブランド価値の喪失リスクと、その迅速な対応の重要性を浮き彫りにしました。
著作権法・肖像権・広告規制の観点から見るAIの危険性
生成AIの活用には著作権法上の注意が必要です。
また、AIが既存の写真やイラストを学習して類似画像を生成する場合、元の作者の許諾なく利用していれば著作権侵害となり得ます。人物の顔や声を無断でAI利用することは肖像権・パブリシティ権の侵害に該当する可能性があります。
実在しないモデルを起用した広告でも、それ自体肖像権等の侵害にあたらないとしても「誰かのデータを盗用しているのではないか」という世間の警戒感につながりブランドイメージの毀損につながった例もあります。
さらに広告表示の法規制にも留意が必要で、AIが生成した内容であっても商品やサービスを誤認させる表現は景品表示法などに抵触する可能性があります。
実際、2023年10月からは、ステルスマーケティング(広告であることを隠す手法)が景品表示法に基づく告示により不当表示として規制されており、生成AIによる広告でも消費者に誤解を与える手法は規制対象です。
また、ディープフェイク等で競合他社が虚偽の風評を流布すれば不正競争防止法による営業誹謗行為や、刑法上の信用毀損罪・業務妨害罪に問われる場合もあります。
このようにAIの活用には多角的な法的リスクが潜んでおり、企業は万全のチェック体制と法務の関与が不可欠です。
ディープフェイクによる風評・虚偽情報拡散の脅威
ディープフェイクとはAI技術によって実在しない映像や音声を作り出す技術であり、悪用されれば企業に深刻な脅威をもたらします。
近年、海外ではZoom会議上にAI生成の架空役員が登場して社員を騙し、秘密資金の送金を指示するといった巧妙な詐欺事件や、経営者の声をAIで真似た電話により約24万ドルもの資金を送金してしまった例が報告されています。
こうした詐欺型の被害のみならず、ディープフェイクは企業の信用失墜を狙った虚偽情報の拡散にも利用されかねません。
例えば、競合他社がAIで捏造した不良品事故の動画をネット上に流したり、経営トップの不適切発言を偽の音声ででっち上げたりすれば、瞬く間に株価の下落や顧客離れを招くでしょう。事実、2023年にはSNS上で首相の偽動画が拡散され投稿者が謝罪・撤回する事態も起きており、企業も他人事ではありません。
悪質なデマ拡散は刑事上も信用毀損罪・業務妨害罪(刑法233条・234条)に該当し得る明白な違法行為ですが、犯人を特定して法的責任を追及するまでに時間がかかるのが実情です。このようにディープフェイクは企業の評判を一夜にして揺るがす可能性があり、平時から情報監視と迅速な対応策を整えておくことが重要です。
経営層が知るべき「AI不祥事対応マニュアル」
生成AIやディープフェイク絡みの不祥事に備え、経営層は平時から対応マニュアルを整備しておく必要があります。万が一炎上が発生した際には、まず社内で迅速に情報を収集し関係部署と共有した上で初動方針を決定し、問題のある広告や投稿を一時停止、そして公式見解の公表や謝罪対応までを速やかに行うことが肝心です。
特にSNS時代では初動の遅れが命取りとなり、小さな火種でも瞬く間に拡大しかねないため、平時からX(旧Twitter)などのSNSや掲示板の動向を監視するソーシャルリスニング体制を敷き、ネガティブな反応をリアルタイムで把握する仕組みを用意しておくべきでしょう。
実際に2023年には、集英社が生成AIで作成した架空モデルのグラビア写真集を発売したものの、発売後に寄せられた様々な意見を受けて約10日後に販売を終了しており、短期的な利益より長期的なブランド価値維持を優先する経営判断の重要性を示しました。
経営層はこのような事例も踏まえ、AI活用に関する社内ガイドライン整備やチェックフローの確立、緊急時の広報・法務連携手順などを含む包括的な「AI不祥事対応マニュアル」を策定しておくことが求められます。
弁護士と連携したブランド防衛・信用回復の実践
万が一、生成AIの不祥事やディープフェイクによる風評被害が発生した場合、企業は法務の専門家である弁護士と緊密に連携してブランド防衛と信用回復に当たるべきです。
悪質なデマや虚偽投稿に対しては、弁護士を通じて速やかにサイト管理者へ削除要請を行い、発信者の特定のためプロバイダに発信者情報開示請求を行うなど、早い段階で適切な法的措置を講じることが重要です。
例えば、根拠のない口コミによる業務妨害や名誉毀損が疑われる場合、被害届の提出や加害者の刑事告発によって警察の捜査を促すことも検討されます。こうした対応には高度な法律知識と経験が必要であり、企業内だけで対処しようとすると対応の遅れや不備が生じかねません。
専門の弁護士は、危機対応の初期段階から助言を行い、謝罪声明や記者会見の内容についても法的リスクを踏まえた表現をアドバイスしてくれます。事実無根のデマに毅然と反論しつつ、自社に落ち度があれば適切に認め再発防止策を提示するといったバランスの取れた対応は、法律のプロの支援によってこそ実現しやすくなります。
早期に弁護士と協議し迅速な対応を取ることが、ブランドの信頼回復への近道と言えるでしょう。
