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1. はじめに
企業の内部情報は、システムへの不正アクセスだけで漏えいするわけではありません。
従業員、役員、委託先スタッフ、アルバイト、派遣社員など、社内情報に接する立場の人が、悪気なく撮影した画像や投稿をSNSに掲載しただけでも、重大な情報漏えいにつながることがあります。
報道によれば、日本テレビは2026年4月27日の定例会見で、朝の情報番組「ZIP!」のスタッフが、出演者名が記載された資料、シフト表、入構証などを個人SNSに投稿し、内部情報が漏えいした問題について謝罪しました。投稿を行った人物は、4月に社会人になったばかりの新人スタッフと説明されています。
また、関連報道では、問題発生前にSNS情報漏えいの禁止や入構証管理に関する研修が行われていたにもかかわらず、研修直後に情報流出が起きたとされています。
このような事案は、テレビ局やメディア企業だけの問題ではありません。
金融機関、医療機関、メーカー、IT企業、士業事務所、学校法人、スポーツ団体、行政関連業務の受託企業など、内部資料、顧客情報、人事情報、営業資料、技術情報、契約情報、施設管理情報を扱うすべての企業に共通するリスクです。
2. 今回のニュースから見える企業のリスク
今回の報道で注目すべき点は、情報漏えいの原因が高度なサイバー攻撃ではなく、スタッフの個人SNS投稿であった点です。
企業の情報管理では、ファイアウォール、ウイルス対策、アクセス制限などの技術的対策が重視されがちです。しかし、実際には、スマートフォンで職場内を撮影する、入構証を写す、社内資料を背景に投稿する、業務画面をSNSに掲載するといった行為によって、重大な情報漏えいが発生することがあります。
IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、組織向け脅威として「内部不正による情報漏えい等」が挙げられており、内部関係者による情報持ち出し、アクセス権限の悪用、スマートフォンのカメラや紙媒体を使った持ち出しなどが問題とされています。
特に、今回のように入構証、シフト表、出演者や関係者の情報が含まれる場合、単なる「社内ルール違反」では済まない可能性があります。
施設への不正立入りリスク、出演者や従業員の安全確保、取引先との信頼関係、個人情報保護法上の対応、委託先管理責任、危機管理広報など、複数の問題が同時に発生します。
3. 内部情報・機密情報とは何か
企業における内部情報・機密情報には、次のようなものが含まれます。
- 顧客情報、取引先情報、従業員情報
- 売上、原価、営業戦略、経営計画
- 商品開発情報、設計図、技術データ、研究資料
- 契約書、見積書、提案書、価格表
- 人事評価、異動情報、給与情報
- シフト表、勤務予定、警備情報、入退室管理情報
- 出演者、講師、選手、医師、専門職などの関係者情報
- 社内会議資料、未公表のプレスリリース案
- ID、パスワード、入構証、システム画面
- クレーム対応記録、事故報告書、内部調査資料
これらのうち、不正競争防止法上の「営業秘密」として保護されるためには、秘密管理性、有用性、非公知性の3要件を満たす必要があります。
つまり、会社にとって重要な情報であっても、誰でも閲覧できる場所に置かれていた、秘密情報であることが明示されていなかった、アクセス制限がなかった、社内規程が整備されていなかったという場合には、法律上の営業秘密として保護されにくくなるおそれがあります。
4-1. 不正競争防止法
営業秘密が不正に取得、使用、開示された場合、不正競争防止法上の民事責任や刑事責任が問題となります。
営業秘密侵害が認められる場合、差止請求、損害賠償請求、信用回復措置などの民事上の対応に加え、悪質な事案では刑事告訴や捜査対応も検討されます。
営業秘密侵害に関する刑事罰として、個人については、10年以下の拘禁刑や2,000万円以下の罰金またはその両方が科されるおそれがあり、法人に対しては、両罰規定によって同額の罰金が科されるおそれがあります。
もっとも、すべての内部情報の漏えいが直ちに不正競争防止法違反になるわけではありません。
重要なのは、漏えいした情報が営業秘密として管理されていたか、投稿者がどのような目的で持ち出したか、第三者に利用されたか、競合他社に渡ったか、会社に損害が発生したかという点です。
4-2. 個人情報保護法
漏えいした情報の中に、氏名、勤務先、顔写真、連絡先、勤務予定、入構証情報など、特定の個人を識別できる情報が含まれる場合、個人情報保護法上の対応が必要となる可能性があります。
個人データの漏えい等が発生し、個人の権利利益を害するおそれがある場合には、個人情報保護委員会への報告および本人への通知が必要になります。
報告対象となる代表例は、要配慮個人情報が含まれる場合、財産的被害のおそれがある場合、不正目的による漏えいのおそれがある場合、1,000人を超える漏えいが発生した場合などです。個人情報保護委員会は、対象事案では速やかに、概ね3日から5日以内に報告を行うよう案内しています。
今回のようなSNS投稿型の漏えいでも、投稿内容に個人情報が含まれていれば、会社は「少人数だから大丈夫」と安易に判断せず、報告義務や本人通知の要否を検討する必要があります。
4-3. 労働法・就業規則上の問題
従業員やスタッフが社内情報をSNSに投稿した場合、就業規則、誓約書、秘密保持契約、SNS利用規程、情報セキュリティ規程への違反が問題となります。
会社としては、事実関係を調査したうえで、注意指導、配置転換、懲戒処分、損害賠償請求などを検討することになります。
ただし、懲戒処分を行う場合には、就業規則上の根拠、処分の相当性、本人への弁明機会、過去事例との均衡などが重要です。感情的に重い処分を先行させると、後に懲戒処分の有効性を争われるリスクがあります。
4-4. 委託先管理責任
今回のように、正社員ではなく、制作協力会社、派遣社員、業務委託先、外部スタッフが関与する場合、委託元企業の管理責任も問題になります。
委託先に対して秘密保持義務を課していたか、再委託先までルールが及んでいたか、入社時に研修を実施していたか、スマートフォン撮影やSNS投稿を禁止していたか、違反時の報告義務を契約で定めていたかが重要です。
企業側は、「漏えいしたのは委託先スタッフだから自社には責任がない」とは言い切れません。委託先を通じて取得・管理していた情報が漏えいした場合、取引先、出演者、顧客、監督官庁、世間に対して、委託元としての説明責任を問われることがあります。
5. 問題発生時に企業がとるべき初動対応
内部情報・機密情報の漏えいが発覚した場合、最初の数時間から数日間の対応が極めて重要です。
5-1. 投稿・拡散状況の確認と証拠保全
まず、投稿内容、投稿日時、投稿アカウント、閲覧範囲、拡散先、スクリーンショットの有無を確認します。
削除依頼を急ぐことは重要ですが、その前に証拠保全を行う必要があります。投稿が削除されると、後に社内処分、損害賠償請求、刑事告訴、委託先への請求を検討する際に、事実関係の立証が困難になることがあります。
保全すべき資料としては、投稿画面、URL、投稿日時、コメント、拡散先、社内資料との照合結果、アクセス権限、本人の説明内容などが挙げられます。
5-2. 被害範囲の特定
次に、漏えいした情報の内容を分類します。
- 個人情報が含まれるか
- 営業秘密に該当する可能性があるか
- 取引先・顧客情報が含まれるか
- 施設管理・警備情報が含まれるか
- 未公表情報やインサイダー情報が含まれるか
- 契約上の秘密保持義務に違反する情報か
二次被害が発生するおそれがあるかどうかの分類を誤ると、必要な報告、本人通知、公表、取引先説明、警察相談の判断が遅れます。
5-3. 関係者へのヒアリング
投稿者本人、上司、同じ現場にいたスタッフ、委託先責任者、情報管理担当者から事情を聴取します。
この際、威圧的な聴取や決めつけは避けるべきです。本人が悪意を持って投稿したのか、軽率な投稿だったのか、第三者から依頼されたのか、他にも持ち出した情報があるのかによって、会社の対応は大きく変わります。
5-4. 削除要請・拡散防止
SNS運営会社への削除申請、投稿者への削除指示、拡散アカウントへの削除要請、検索結果への対応を行います。
ただし、削除要請の文面によっては、かえって炎上を拡大させることがあります。特に、強圧的な文面や不正確な説明は、スクリーンショットで再拡散されるリスクがあります。
弁護士が関与することで、権利侵害性、削除理由、任意削除要請、発信者情報開示の要否を整理したうえで、適切なトーンで対応できます。
5-5. 個人情報保護委員会・監督官庁・取引先への対応
個人データの漏えい等に該当する場合、個人情報保護委員会への報告や本人通知の要否を検討します。
業種によっては、金融庁、総務省、厚生労働省、自治体、取引先、発注元への報告が必要となる場合もあります。
委託業務の場合には、委託契約上の事故報告期限が短く定められていることもあります。契約書を確認せずに対応すると、報告遅延自体が契約違反と評価されるおそれがあります。
5-6. 公表・謝罪・広報対応
情報漏えいがSNS上で拡散している場合、会社が沈黙を続けることで、かえって不信感が高まることがあります。
一方で、調査未了の段階で詳細を断定的に公表すると、後日説明が変わり、信用をさらに損なうおそれがあります。
公表文では、少なくとも次の点を整理する必要があります。
- 発生した事実
- 漏えいした可能性のある情報
- 現時点で確認できている影響範囲
- 対象者への対応
- 再発防止策
- 問い合わせ窓口
- 今後の調査方針
6.事前の予防策
6-1. SNS利用規程の整備
企業は、SNS利用について明確なルールを定める必要があります。
特に、以下の事項は明文化しておくべきです。
- 職場内撮影の禁止または許可制
- 業務資料、PC画面、ホワイトボード、入構証の投稿禁止
- 顧客、取引先、出演者、従業員に関する投稿禁止
- 勤務中の個人SNS投稿ルール
- 匿名アカウントでも会社情報を投稿してはならないこと
- 違反時の調査協力義務
- 懲戒処分や損害賠償の可能性
「常識でわかるはず」という運用では不十分です。特に若年層の従業員や外部スタッフに対しては、具体例を示した研修が必要です。
6-2. 入構証・シフト表・内部資料の管理
入構証やシフト表は、単なる事務情報ではありません。
入構証が写れば、施設のセキュリティ体制が推測される可能性があります。シフト表が流出すれば、誰がいつ現場にいるかが分かり、ストーカー被害、取材トラブル、不正侵入、なりすましのリスクが高まります。
そのため、入構証、社員証、ゲストパス、警備カード、シフト表、座席表、出演者控室情報、来訪者予定などは、機密情報として扱うべきです。
6-3. 研修は「受けさせる」だけでは足りない
今回の報道では、研修を行っていたにもかかわらず情報漏えいが起きた点が注目されています。
企業にとって重要なのは、「研修を実施した」という単なる結果や形式ではなく、現場で実際に守られる仕組みを作ることです。
たとえば、次のような工夫が必要です。
- 実際のSNS投稿例を使ったケーススタディ
- どの情報が写り込むと危険かを画像で説明
- 新人、派遣、委託先向けの短時間研修
- 研修後の理解度テスト
- 違反時の処分例の共有
- 現場責任者による撮影禁止エリアの確認
- 定期的なリマインド通知
6-4. 委託先契約・誓約書の見直し
外部スタッフが関与する業務では、委託先との契約書が非常に重要です。
契約書には、次の条項を入れておくべきです。
- 秘密情報の定義
- 個人情報の取扱い
- 再委託先への義務付け
- SNS投稿・撮影禁止
- 事故発生時の即時報告義務
- 調査協力義務
- 損害賠償義務
- 契約解除条項
- 教育研修の実施義務
- 入構証・貸与物の管理義務
委託先の従業員が起こした問題であっても、委託元企業の信用が傷つくことは少なくありません。契約段階で責任分界点を明確にしておくことが重要です。
6-5. 技術的対策
SNS投稿型の漏えいは人為的ミスが原因ですが、技術的対策も有効です。
たとえば、以下の点に注意が必要です。
- 執務室内の撮影禁止表示
- 私物スマートフォンの持込み制限
- 機密エリアでのカメラ機能制限
- 画面の覗き見防止
- 印刷物の管理番号付与
- 重要資料への透かし表示
- アクセスログの取得
- DLP、CASBなどの情報漏えい対策ツール
- 入退室ログの管理
- 共有フォルダのアクセス権限見直し
7. 弁護士による効果的な対応方法
7-1. 初動対応チームへの参加
情報漏えいが発生した場合、経営者、法務、総務、人事、情報システム、広報、現場責任者が連携する必要があります。
弁護士は、初動対応チームに入り、次の事項を整理します。
- 法的責任の有無
- 個人情報保護委員会への報告義務
- 本人通知の要否
- 取引先・委託元への報告義務
- 投稿者への対応
- 委託先への責任追及
- 公表文・謝罪文の内容
- 刑事告訴や被害届の要否
- 損害賠償請求の可否
- 再発防止策の法的妥当性
7-2. 社内調査・第三者的調査
弁護士が関与することで、社内調査の中立性と証拠価値を高めることができます。
特に、経営層、役員、管理職、委託先責任者の管理不備が問題となる場合、社内だけで調査を行うと、調査の客観性が疑われることがあります。
弁護士は、ヒアリング、証拠確認、ログ分析結果の整理、規程違反の有無、再発防止策の提言を行い、必要に応じて調査報告書を作成します。
7-3. 投稿削除・発信者情報開示
SNS上で内部情報が拡散した場合、削除要請、送信防止措置依頼、発信者情報開示請求を検討します。
特に、社内資料や個人情報が転載され続けている場合、放置すれば二次被害が拡大します。
弁護士は、権利侵害性を整理し、プラットフォームに対する削除請求、投稿者への警告、悪質な拡散者に対する法的措置を行います。
7-4. 個人情報保護委員会・監督官庁対応
個人情報が含まれる漏えい事案では、報告書の作成が重要です。
報告書では、発生原因、漏えい項目、対象人数、二次被害のおそれ、本人対応、再発防止策などを整理する必要があります。
弁護士が関与することで、報告義務の有無を適切に判断し、過不足のない報告内容を作成できます。
7-5. 懲戒処分・人事対応
投稿者に対する懲戒処分は慎重に行う必要があります。
弁護士は、就業規則、誓約書、過去の処分事例、漏えい情報の重要性、本人の故意・過失、被害の程度、反省状況などを踏まえ、処分の相当性を検討します。
また、処分通知書、弁明機会の付与、委託先への通知、再発防止研修の実施など、人事対応全体をサポートします。
7-6. 委託先・取引先との交渉
漏えいに委託先が関与している場合、委託契約に基づく責任追及、損害賠償、再発防止策の要求、契約解除、今後の取引条件の見直しが問題となります。
弁護士は、契約書を確認したうえで、委託先に対する通知書の作成、交渉、損害額の整理、再発防止策の合意書作成を行います。
8. 企業が整備すべき再発防止策
情報漏えい後の再発防止策は、抽象的な「教育を徹底します」だけでは不十分です。
実効性のある再発防止策として、次のような対応が必要です。
- 機密情報の分類基準を作る
- 社内資料に機密区分を表示する
- SNS利用規程を改定する
- 撮影禁止エリアを明確にする
- 私物スマホの取扱いを決める
- 新人・委託先向け研修を義務化する
- 入構証・社員証の撮影禁止を明文化する
- シフト表や座席表の閲覧権限を制限する
- 違反時の報告ルートを整備する
- 定期的な内部監査を行う
- 委託先契約を見直す
- インシデント対応マニュアルを作成する
- 広報対応のテンプレートを準備する
- 個人情報漏えい時の報告フローを整備する
- 弁護士・専門家への緊急相談体制を作る
- 経営者・管理部門へのメッセージ
SNS時代の情報漏えいは、一瞬で発生し、一瞬で拡散します。
従業員本人に悪意がなくても、軽率な投稿によって、会社の信用、取引先との関係、顧客の安全、従業員のプライバシー、施設のセキュリティが大きく損なわれることがあります。
企業に求められるのは、単に「投稿するな」と注意することではありません。
どの情報が危険なのか、なぜ投稿してはいけないのか、違反した場合にどのような責任が生じるのかを、現場で理解できる形に落とし込むことです。
また、漏えいが起きた後は、事実確認、証拠保全、削除対応、本人通知、監督官庁対応、委託先対応、広報対応、懲戒処分、再発防止策を同時並行で進める必要があります。
この判断を誤ると、情報漏えいそのものよりも、事後対応の不備によって信用を失うことがあります。
10. まとめ
内部情報・機密情報の漏えいは、企業規模や業種を問わず発生します。
特に、スマートフォンとSNSが日常化した現在では、社内資料、入構証、シフト表、顧客情報、PC画面が意図せず写り込み、瞬時に拡散されるリスクがあります。
企業としては、平時から情報管理規程、SNS利用規程、秘密保持契約、委託先管理、研修体制、インシデント対応マニュアルを整備しておくことが重要です。
万が一、情報漏えいが発生した場合には、早期に弁護士へ相談し、法的責任の整理、被害拡大防止、関係者対応、監督官庁対応、再発防止策の策定を進めることが、企業の信用回復に直結します。
