
運送業の経営者・運行管理者にとって、自社の輸送業務に潜む法的リスクを正しく理解することは不可欠です。日々の業務で法律違反があれば、行政処分だけでなく刑事事件に発展するおそれもあります。本記事では、運送業務で注意すべき主な法的リスクについて具体例を交え解説し、万が一に備えて事前に専門弁護士へ相談する重要性を説明します。
このページの目次
1. 貨物自動車運送事業法違反のリスク
トラック輸送業には「貨物自動車運送事業法」という業法が適用され、営業には国土交通大臣の許可(緑ナンバー取得)が必要です。無許可で有償運送を行う「白ナンバー営業」は同法違反となり、3年以下の懲役または300万円以下の罰金という重い刑事罰の対象です。また同法では、違反点数制度により違反内容に応じた点数が事業者に科され、累積点数が一定に達すると車両停止・事業停止などの行政処分、最悪の場合は許可取消(ナンバープレート返納)に至ります。例えば無許可営業や名義貸しといった悪質な違反は、一発で許可取消や刑事告発につながりかねません。法令を遵守し、営業許可や各種届け出を確実に行うことが事業継続の前提となります。
2. 事例:違反で摘発されたケース
無許可営業の摘発例: 2024年には青森県で、運送許可を得ずに自家用トラックで農産物を有償運搬していた男性が貨物自動車運送事業法違反容疑で逮捕されました。許可のない「白トラック行為」でわずかな報酬を得ていた事案ですが、法律違反として刑事手続きに発展したのです。過去には東京都でも、元運送業者の親子が約3年間にわたり無許可で野菜等を運び約2億円の売上を上げていたため逮捕されたケースがあります。父親は以前に名義貸し発覚で事業停止処分を受けており、許可を失った後も違法営業を続けていたことが判明しました。過去の行政処分歴がある場合、再違反時にはより厳しい措置が取られやすく、悪質性が高いと判断されれば長期の事業停止や許可取消は免れません。これらの事例は、業法違反が発覚すれば経営者自身が逮捕され刑事責任を問われる現実を示しており、コンプライアンス軽視のリスクの大きさが浮き彫りとなっています。
3. 交通事故における使用者責任と運行供用者責任
運送会社のドライバーが事故を起こした場合、会社にも民事上の賠償責任が生じます。これは民法上の使用者責任(従業員が業務中に第三者に与えた損害を雇用主が賠償する責任)および自動車損害賠償保障法上の運行供用者責任(自己のために自動車を運行に提供する者の賠償責任)によるものです。例えば営業中のトラック事故では、運転者本人だけでなく雇用主である運送会社も被害者への賠償責任を負うことが法的に定められています。実際、従業員が社用トラックで人身事故を起こした場合、被害者からは運転者と会社の双方に損害賠償請求がなされます。賠償額は死亡事故など重大事故では数千万円規模にも及び、被害者救済のため自動車保険で賄われるのが一般的ですが、過失の程度によっては保険だけで不足するケースもあります。運送会社は日頃から安全運転指導と健康管理を徹底し、万が一事故が起きた際にも誠実に被害者対応することで、刑事・行政上の制裁を回避しつつ高額賠償リスクに備える必要があります。
4. 過積載(積みすぎ運搬)のリスクと罰則
トラックの過積載(定められた最大積載量を超える荷物の積載)は、重大事故や道路損傷につながる危険な違法行為です。道路交通法および貨物自動車運送事業法で厳しく禁じられており、発覚すれば事業者・ドライバー・荷主それぞれに処分が科されます。特に事業者がドライバーに過積載を指示または黙認した場合、6か月以下の懲役または10万円以下の罰金という刑事罰が規定されています。また公安委員会から最大3か月間の該当車両の使用禁止措置(車両使用制限処分)がとられることもあります。過積載違反は運送事業法上も行政処分の対象であり、違反内容に応じて営業用車両の一定日数使用停止や、悪質・反復の場合には事業許可の取消しや運行管理者資格の取消しにまで及ぶ可能性があります。例えば積載量オーバーを繰り返す事業者は「安全確保義務違反」として監査時に厳しく指摘され、営業停止処分や社名公表となり社会的信用を失う恐れがあります。過積載は目先の効率を優先した違法行為であり、「荷物を積み過ぎない」という基本を守ることが、安全と会社の信用を守る上で肝要です。
5. 違法運行(過労運転・日報不備・運転時間超過など)の罰則
運送業界では、法令で定められた運行管理ルールを逸脱する行為も重大なリスクです。例えば過労運転(ドライバーを疲労状態で運転させること)は道路交通法で明確に禁止され、ドライバー本人はもちろん、それを指示・黙認した使用者も処罰の対象となります。事業者が運転者に過労運転をさせた場合、道路交通法75条違反として3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。実際に、運行管理者や配車担当者が長時間労働で疲弊した運転手の運行を容認し、道路交通法違反で有罪判決を受けた例もあります。また運行管理面では、運転日報の作成・保存義務も重要です。貨物自動車運送事業輸送安全規則および道路交通法施行規則により、事業用トラックの運行ごとに日報を記録し1年間保存することが義務づけられており、未作成や虚偽記載が発覚すると監査で重大な指摘を受け事業停止命令等の行政処分を招きます。さらに、運転時間については国土交通省の「改善基準告示」で連続運転は4時間以内、1日の総運転時間は2日平均で9時間以内等の詳細な基準が示されています。これらの基準を超える違法な長時間運転は、安全運転義務違反として交通違反点数25点(免許取消相当)に相当する重大違反です。日々の点呼やデジタコ記録を通じて運転者の疲労度と記録を管理し、法定の運行時間・休憩基準を遵守することが、企業としての最低限の責務となります。
6. 違反が刑事事件に発展する可能性
上述した法令違反は、行政処分や罰金だけに留まらず刑事事件に発展するリスクがあります。とりわけ人身事故が絡む場合、捜査当局は事故原因と管理体制を詳しく調べ、悪質な違反が認められれば会社経営者や管理者に対しても刑事責任を追及します。実例として、2016年に広島県の高速道路で発生した多重死亡事故では、渋滞待ち車列にトラックが追突し2名が死亡しましたが、疲労蓄積による過労運転が原因とされ、加害トラック運転手に懲役4年の実刑判決が下ったのみならず、その運送会社と運行管理者も過労運転ほう助の疑いで逮捕・起訴されました。極度の疲労で正常な運転ができない状態にあることを知りながら運行させた雇用主・管理者の責任が厳しく問われた判例です。このように、重大事故では運転者だけでなく会社側も刑事裁判の被告席に立たされる可能性があります。また事故が起きなくとも、過労運転や無許可営業など悪質な違反は警察による摘発対象であり、逮捕・送検され前科が付く事態も起こりえます。法令違反が会社存続や経営者の人生を左右する「事件」につながることを十分認識し、違反の芽は早期に摘み取る姿勢が求められます。
7. 事前の専門家相談と当事務所のサポート
以上のように、運送業における法令違反は経営に甚大なダメージを与えかねず、最悪の場合は刑事事件化して経営者や管理者が責任を負う事態にもなります。しかし、適切な法的アドバイスに基づく事前対策によって多くのトラブルは未然に防止可能です。長年企業法務に携わった弁護士の経験上、問題発生後に対処するより、平時から法制度を活用したリスク回避策を整備する方が企業の継続的発展に資することは明らかです。当事務所には運送業界のコンプライアンスと刑事弁護に精通した弁護士がおり、法令遵守の体制構築から万一の事故・摘発時の対応までトータルにサポートいたします。例えば、過労運転防止の社内ルール作成や法令順守状況のチェックなどを事前に行いリスクを減らすとともに、仮に捜査を受けた場合や事故が発生した際には速やかに対応し、刑事・民事上の責任の軽減と会社の危機回避に全力を尽くします。運送業の法的リスクに不安を感じたら、ぜひ一度当事務所にご相談ください。専門家と連携することで法の網を味方につけ、安心・安全な事業運営を実現しましょう。
