本記事では、横浜地裁平成26年(わ)1529号平成28年10月31日判決について解説します。この判決については、控訴上告されていますが、有罪無罪の結論自体に変更はありません。
本件は、被告人が不正競争防止法で禁止されている営業秘密の領得を犯したものとして起訴されたものの、一部について有罪、一部について無罪となった事件です。このような結論が出ている判決をよく読むと、なぜ一部については有罪になるのに他は無罪となるのかが解ります。それが解ると、営業秘密を守るためには企業がどうするべきなのかも解ります。
本件を簡単にいうと、自動車会社A社で働いていた被告人は、サーバーコンピューターに保存された営業秘密データを複製して持ち出したというデータ領得行為と営業秘密が含まれた教本を持ち出した複製して持ち出したという教本領得行為で起訴されました。
データ領得行為については、営業秘密であるデータを不正の目的で持ち出したものだと認定されて有罪となっています。一方、教本領得行為については、秘密として管理されていたとはいえないとして無罪となりました。
では、なぜデータは営業秘密なのに、教本は営業秘密と認められなかったのでしょうか?
前回の記事では、データ領得行為について有罪となった過程について説明しました。その記事は以下のリンクから確認できます。
今回は、教本領得行為が無罪となった理由を確認します。
結論からいうと、領得された教本が営業秘密に該当するとはいえないという理由から無罪となりました。
では、なぜ営業秘密と認定されなかったのでしょうか。確認していきます。
(1)裁判所の認定によると、教本は次のような管理の仕方で保管されていました。
・教本は、閲覧コーナーに、他の本と共に、表紙の全部又は一部が見えるように展示されていた。
・閲覧コーナーには監視員はおらず、周囲に監視をすることが可能な職員もいなかった。
・教本を紐や鎖でオープンラックとつなげるような措置もなく、閲覧するために氏名等を記載するなどの手続もなく、館内に入った人は誰でも自由に手に取って閲覧することができ、メモをすることも禁止されていなかった。
・教本は若手従業員の育成講座のテキストとして使用され、受講者には終了後に教本が配布され、持ち帰りも許されていた。
(2)本件教本には、社外秘であることを表す文字のスタンプが押されていた。
(3)(1)の事情を踏まえると、(2)があっても営業秘密として合理的な方法で管理されていたとはいえない。
以上の理由から、教本についてはそもそも営業秘密と認めるだけの管理がされていないことから営業秘密として認められなかったのです。
データ領得行為と教本領得行為とで結論が異なった理由から、営業秘密として保護を得るための管理体制について一定の方向性を考えることができます。
まず当然のことながら、社外秘であることを示すマークなりスタンプなりは最低限必要なのでしょうが、それだけで営業秘密と取り扱ってもらえるわけではないようです。
誰がそれを見てよいのか明確に示すこと、誰が確認したのか記録を残すことができるようにすること、他の秘密でないものと適切に分けて管理すること、こういった事情が必要になってくるといえます。
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