従業員に前科があることが分かったら

(事例)

 Aさんは、強盗の罪で服役して、半年前に刑務所から出所しました。Aさんは、B会社に就職するにあたり履歴書を作成していましたが、履歴書に賞罰欄が設けられているのに、服役していたことを記載せず、また面接でも前科があることを言いませんでした。Aさんが入社して1年後、実は服役前科があることがB会社に発覚しました。
B会社は、Aさんに何らかの処分をすることができるでしょうか。
逆にAさんは、何かしらの処分を受けてしまうのでしょうか。

以上の事例はフィクションですが、弊所は、刑事事件を多数扱っているため、相談者から「再就職をする際に警察のお世話になったことを言わないといけませんか?」という相談を受けることが少なくありません。
さて、従業員に前科があることを知った経営者は、その従業員に処分を下すことができるのでしょうか。経営者の方にとっても、今まさに就職活動をしている人にとっても大きな関心ごとではないでしょうか。
この件について、解説します。

前科を隠していたらどうなる 

まず前科があるのに前科を隠して入社する行為は、「経歴詐称」、つまり自分の経歴を偽ることになります。前科があるのに前科を隠す場合だけでなく、本当はA大学の出身者なのにB大学出身だと偽るような場合も経歴詐称にあたります。
そして従業員を懲戒するにはあらかじめ就業規則で懲戒の種別及び事由を定めておく必要があり、その拘束力を生じさせるには、その内容を労働者に周知させる手続がとられていなければなりません(最高裁平成13年(受)1709号平成15年10月10日判決,労働基準法106条)。
そして、懲戒処分のバランスが取れているものであることと適切な手続で行われたことが必要になります。
懲戒処分のバランスが取れているとはどういうことでしょうか。簡単にいうと、「いや確かに経歴詐称があるけど、大したことがない詐称なのだから、減給になるのは仕方ないけど、解雇するほどのことではないですよね。」と言われるような懲戒処分は許されないということです。
適切な手続は、その文字通りです。例えば、従業員から言い分を聞かずにいきなり減給や解雇をすると、違法になってしまいます。

このような具合ですので、従業員が隠していた前科を知った経営者としては、就業規則の内容や周知のための手続、処分のバランス、然るべき手続を意識して判断をする必要があります。

特に処分のバランスは、難しい判断を伴いますので、弁護士など専門家に相談することをお勧めします。もし裁判で、「あなたの会社の懲戒処分はバランスが取れていなくて違法です。」と言われてしまった場合、労働者本人からの未払い賃金の請求など金銭的な負担が生じるだけでなく、「ブラック企業」などと報道されるレピュテーションリスクが生じてしまいます。

あくまで一般論ですが、今回のAさんの場合、懲戒解雇になってもおかしくないとは思われますが、例えばあまりにも古い前科を詐称したに過ぎない場合だと懲戒解雇までは難しいかもしれません。また前科が強盗のようなものでなく、交通事故のようなものであった場合も懲戒解雇はやり過ぎとなるかもしれません。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件の豊富な実績を踏まえて、刑事事件と関連する労働問題もサポートできます。もし紛争に巻き込まれている方、懲戒処分について判断が難しいと考えている方はぜひご連絡ください。

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