食中毒騒ぎが起きた場合に会社や経営者は刑事罰を受ける可能性があるの?

【事例】
A社は京都府上京区において、お弁当を製造する店舗を営んでいました。
今月になって、A社が製造するお弁当を食べた消費者数十名が嘔吐や腹痛などの症状を訴えて入院するという事態がSNSを中心に広まりました。
そこで、京都市の保健所がA社に立ち入り検査を行ったところ、A社のお弁当の製造過程に食中毒の原因があったと断定しました。
A社では以前から経費削減のために消費期限を徒過した腐りかけの肉や魚などをお弁当に使用するということが常態化していたということでした。
A社の代表取締役であるBさんは保健所の担当者から刑事事件になる可能性があると言われました。
あわてたBさんは、刑事事件に精通したあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に相談をしました。

食中毒騒ぎによる会社への深刻な影響

最近某洋菓子による食中毒問題が報道やネット上で大きな問題となっています。
現在ではSNSの発達により誰でも情報発信を行うことができるので、食中毒は大きな社会問題に発展しやすい状況になっています。
飲食業に携わる企業にとっては食中毒騒ぎは会社のイメージに深刻な影響を与えますので、対策に十分に留意する必要があることは大前提になっています。

ところで食中毒が発生した場合には、営業停止などの行政処分や、被害者からの損害賠償請求などの民事事件の問題になるというイメージを多くの方が抱いているのではないでしょうか。
しかしながら食中毒騒ぎが発生した場合にはその原因となった企業や企業の経営者が刑事責任を負う場合もあります。
数年前に大きく問題となった、焼き肉店で生肉を使用した商品による集団食中毒が発生し、それが原因で死亡者も出た事件では、焼き肉店を運営する会社に業務上過失致死傷罪の容疑で家宅捜索が入ったことが大きく報道されています。
その後、同容疑で同社の経営者らが業務上過失致死傷罪の容疑で書類送検されたと報道されました(結果は不起訴だったようです)。

このように、大規模な食中毒事件が発生した場合、刑事事件化して大々的に報道される場合があります。
仮に会社の代表取締役が刑事事件により禁錮以上の刑に処せられた場合には、取締役の地位を失い経営に影響が出ることも予想されます。
また、会社としても食品衛生法違反によって刑事罰を受ける場合が規定されています。
以下では、食中毒騒ぎによって会社や経営者が刑事罰に問われる場合にはどのような場合があるのか、またそれを防止するために、早期にできる対応にはどのようなものがあるのかを解説していきます。

食中毒騒ぎで予想される刑事罰

①食品衛生法違反
食中毒が起きた際に問題となる法律として最初に思い浮かぶのが食品衛生法なのではないでしょうか。
食品衛生法6条には次のような規定があります。

食品衛生法6条
次に掲げる食品又は添加物は、これを販売し(不特定又は多数の者に授与する販売以外の場合を含む。以下同じ。)、又は販売の用に供するために、採取し、製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない。
1 腐敗し、若しくは変敗したもの又は未熟であるもの。
ただし、一般に人の健康を損なうおそれがなく飲食に適すると認められているものは、この限りでない。
2 有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いがあるもの。
ただし、人の健康を損なうおそれがない場合として厚生労働大臣が定める場合においては、この限りでない。
3 病原微生物により汚染され、又はその疑いがあり、人の健康を損なうおそれがあるもの。
4 不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの。

本件の事例のケースでは、消費期限の徒過した食品を使用していたということであり、食品衛生法6条1項の規定に違反していることが明らかです。
そして食品衛生法6条に違反する行為をしていた場合には、「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」に処せられることになります(食品衛生法81条1項1号)。
また法人の業務として違反行為がなされていた場合には、法人に「1億円以下の罰金刑」が科される場合があります(食品衛生法88条1号)。
先ほどの事案でも、消費期限を徒過していた食品を使用することが常態化していたようですから、法人としても食品衛生法違反により刑事罰を受ける可能性があるといえます。

また,刑事罰とは別に行政による処分(指導や違反事例としての公表,各都道府県HPや厚労省HP上で公表される)があり得ます。

食品衛生法についてはこちらのページでも解説しています。

②業務上過失致死傷罪
食中毒が発生した場合には、問題の責任者が業務上過失致死傷罪に問われる場合もあります。
業務上致死傷罪は刑法211条に規定があります。

刑法211条
業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。
重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

この刑法211条の前段が、業務上過失致死傷罪と呼ばれる犯罪の規定です(後段は重過失致死傷罪という犯罪です。)。
業務上過失致死傷罪の「過失」とは簡単に言えば、「不注意」と言い換えることができます。
食中毒の事例であれば、食品を扱う者として当然気を付けなければならないことへの注意を怠っていれば過失があると判断されます。
本件の事例であれば、お弁当を製造する業者として消費期限と徒過していない衛生面に問題のない食品を使用することは当然の責務であるといえるので、それを怠っていた場合、過失が認められる可能性は高いといえます。
なお業務上過失致死傷罪に法人を処罰する規定(両罰規定)はないので、同罪により法人が処罰されることはありません。

食中毒騒ぎで刑事事件化を防ぐためには

先ほど見たように会社の管理体制の問題で食中毒騒ぎが起きた場合には、法人や経営陣が刑事罰を受ける可能性があることを説明させていただきました。
その一方で、報道される食中毒事件の多くは営業停止などの行政処分を科されるのみで、刑事事件まで発展していることは少ないように思います。
当然問題の規模や悪質性によるところもあるでしょうが、事後的な対策により刑事事件になるリスクを下げることはできるでしょうか。
以下では食中毒騒ぎが発生した場合に事後的に取りうる対策を紹介させていただきます。

①被害者に対する示談交渉
食中毒問題では、実際に食品を口にした被害者の方がいます。
被害者の方は苦しい食中毒の症状で苦しんでおられますし、最悪の場合死に至るケースもあります。
まずはこの被害者の方に対して、真摯に謝罪をして誠実に被害の賠償を行う必要があります。
謝罪や賠償の交渉を行う場合、当事者が直接行えば感情的になり却ってトラブルを大きくする可能性がありますので第三者である弁護士が間に立って交渉を進めていくことをおすすめします。
仮に賠償の要求があるにもかかわらず、被害者からの連絡を無視するなど誠実な対応を行っていない場合には、悪質性が高いと判断され刑事事件化するリスクが高くなるといえます。

②再発防止策の策定
食中毒騒ぎが確認された場合、まずはこれ以上問題が拡大しないことに全力を注ぐべきです。
問題の責任があることを認めずに、営業停止処分が下されているにもかかわらず営業を継続してしまえば、営業禁止処分の違反として別途食品衛生法違反(営業の禁止)が成立します。
こうなれば刑事罰の対象になるほか、行為の悪質性が高いとして責任者が逮捕されてしまう事態に発展することもあります。
ですのでまずは、科された行政処分には誠実に従ってください。
その上で、再発防止策を企業内で策定し、同様の事態が起こる可能性がないことを理解してもらう必要があります。
このような再犯防止策を策定する際には、内部の人間だけではなく第三者である弁護士も関与することでより客観性のある対策の策定が可能性になります。

以上のように、食中毒騒ぎが発生してしまった場合、問題の鎮静化を図るために早期に弁護士に相談し、対応を依頼することは非常に有用です。
是非早い段階で、刑事事件に精通したあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

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