文書偽造

1 文書偽造の罪

会社では契約書など多くの書類を作成していると思います。そして、そのうち一定の要件を満たす文書については「私文書」とされ、その内容の信用性等が刑法で特別に保護されることになります。

そして代表的な罪としては私文書偽造罪が挙げられます。以下に私文書偽造罪の条文をあげます。

私文書偽造罪(159条1項)

行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは図画を偽造した者は、3月以上5年以下の懲役に処する。

「権利・義務に関する文書」とは、私法上または公法上の権利・義務の発生、消滅、変更を目的とする意思表示を内容とする文書を言い、代表的なものとして売買契約書や委任契約書があります。

また、「事実証明に関する文書」とは、社会生活に交渉を有する事項を証明する文書を言い、代表的なものとしては委任状や受領書があります。

そして「偽造」とは作成権限を有しない者が、他人名義を冒用して文書を作成することをいい、実質は、文書の名義人と作成者との人格の同一性を偽ることをいいます。

例えば会社の平社員が社長の名前と会社の代表印を使って、勝手に売買契約書を作成するような場合に、契約書を「偽造した」と評価されます。

なお文書の名義人と作成者の仁悪の同一性を偽るとまではいえないが、文書の内容を改ざんすることを「変造」と言います。

例えば計借の金額欄を勝手に書き換えてしまう行為などが「変造」に該当します。私文書変造罪についても以下に条文をあげておきます。

私文書変造罪(159条2項)

2 他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。

2 会社の書類で文書偽造が発覚した場合の対応

事例

A社は不動産業を営んでいましたが、従業員のBが会社の代表印を勝手に持ち出して顧客のCさんと賃貸借契約書を作成し、初期費用と称して50万円を騙し取るという事件が発生しました。

Q
事例のような事件が発覚した場合の事後対応や、今後の予防に向けてはどのような対応が考えられますか。
A

事例のような事件が発生した場合、管理責任などで会社の信用問題にも関わる問題になります。また印鑑の管理や従業員の指導監督体制によっては会社自身も民事上の損害賠償責任が発生する可能性もあります。

事情にもよりますが、まずは被害に遭ったCさんに対する謝罪や賠償を検討するべきでしょう。また同じような偽造が行われていないか、内部調査もしっかりと行うべきであるといえます。

それでは事例のように契約書の偽造を防止するための方策にはどのようなものがあるでしょうか。

まずは契約書や、事例では勝手に使用されていた代表印の管理をしっかりと行うことが重要になります。勝手に持ち出しが可能である状況が常態化していると、民事上の賠償責任が免責されない可能性も出てきますので、管理は厳重に行うべきです。

今回の事例とは異なりますが、偽造や変造の態様としてよく行われるのが契約書の複写です。複写した上で該当部分を書き換えて真正な契約書を装うという手口があります。

これを防ぐためには複写ができないような契約書、具体的には複写した場合に、複写であることが書面に浮かぶ上る契約書等を使用することが考えられます。

またその他に、最近では文書偽造の防止のために電子契約書を導入しているところもあります。

電子契約書には電子署名とタイムスタンプの機能が備わっており紙の契約書と比べて格段に偽造の防止が図れます。電子契約書には、契約書を保管するコストを削減できる、製本等の業務を削減できるなどの効果も期待できます。

例えばA社のような不動産業において、2022年5月には、改正宅地建物取引業法が施行され、不動産取引における電子契約が全面解禁されました。

このように電子契約書を推進するための規制の緩和も行われている現状もありますので、文書偽造の防止も含めて電子契約書の導入を考えてはいかがでしょうか。

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